建築仕上診断技術者 資格取得のメリット、活用事例の紹介
タイルや外壁等の仕上げの劣化を放置しておくと落下して人や器物に損害を与える危険があります。また、屋上防水仕上げの劣化を放置しておくと漏水等の原因にもなります。
建築仕上げの診断は、仕上げ部位・部材毎の劣化のメカニズムや躯体との取り合いとの関係などを理解するとともに、過去や最近の材料や工法に対する知識が不可欠であり、経験も重視されます。診断の実施は、単に建築士等の資格を有していればできるわけではなく、専門的知識と実務経験の双方が必要とされます。
「建築仕上診断技術者」は、建築仕上げの物理的劣化、社会的劣化について総合的に診断し、建築仕上げの適正な保全に資する技術者です。
「建築仕上診断技術者(以下「仕上BD」という)の資格は、建築仕上げとその診断(防水、外装、内装等)に関して体系的にカリキュラムが組まれた講習を受講し、講習の修了が認められ、公益社団法人ロングライフビル推進協会に登録された者に与えられます。また、協会が定めた建築仕上診断業務指針により、仕上BDが行う診断は、業務の手順、方法等が明らかされております。また、必要な最新の技術や知識を学ぶため5年に一度、更新講習の受講等を経て資格者登録の更新を行っております。
建築仕上材の劣化へ適切に対応することは施設を利用する人の安全性を確保することに直結し、また利便性、快適性を保つ上でも重要な要素になります。また、建築物は街並みを構成する資産でもあり、利用される施設の安全性、省エネ性、耐震性等の確保は、社会からも求められるものです。
総合的な建築仕上げの診断は、施設を利用する人々・企業のためだけでなく、周辺環境から地球環境まで含めた良好な建築ストックの形成にも資するものであり、建築仕上診断技術者は、これらに貢献できる専門技術者になります。
1. 建築仕上診断技術者を取得するメリットについて
- 仕上BDは、各種仕上げの物理的・社会的な劣化診断や耐震診断等、多方面から建築仕上げの診断を行い、補修や改修等の維持保全に適切な提言が出来る知識・能力を持った技術者として認定されます。
- 資格者としての認定を受けることで、建築仕上げの状態や性能を総合的に把握・評価し、結果をまとめた報告書の信頼性を高めるものです。建築仕上診断技術者の診断は、「建築仕上診断業務指針」に沿って行われ、業務の品質を保持されております。
- 今後、補修や改修を必要とする既存建築ストックが増加していく中で、安定的な建物運用や建物利用者や社会的なニーズに対応するための改修計画等に頭を悩ませるオーナーを手助けする技術者として、仕上BDの資格を活かして、多岐にわたる分野で活躍することができます。
- 少子・高齢化により人口減少が進む中で、自らの専門性や技術を資格という形で客観的に評価され提示できることは、競合者に対して有利に働く他、後進の技術者に知見を伝えることなどにより所属企業だけでなく、広く社会への貢献にもつながります。
- 次世代の技術者の教育・指導の際に、資格というかたちで経験・専門性を簡単に証明することができ、様々なことについて根拠をもって教えることができます。また、技術者として独立開業等する場合にも診断技術をもとにしたコンサルタント等として専門性をアピールできます。
- 資格取得後も更新講習があり、最新の法令改正や技術の状況等を得ることができます。また、継続的な知識・技術の習得に務めていることの証明になります。
- 公共施設の診断・改修等業務の入札時に「建築仕上診断技術者」等が要件とされている場合があります。国においてはインフラの長寿命化を進めており、公共建築物については長寿命化が求められており、年月の経過した外壁等に関する問題は、人命の安全にも直結した問題でありるだけでなく、躯体の耐久性にも関係するものであり、今後一層公共施設の点検・診断等において専門の技術者の需要が高まることが予想されます。
「建築仕上診断技術者」の配置が要件とされた入札事例
(現在編集中)
2. 建築仕上診断技術者の活動分野について
- 建築仕上の劣化診断業務:建築仕上(防水、外装、内装等)の物理的劣化・社会的劣化を総合的に診断することにより、建築仕上げの保全に資することができます。また、診断結果に基づき顧客のニーズに応じた適切な補修・改修の時期・方法を提案することができます。
- 建築仕上げの点検等維持管理業務:建築物の各種仕上材の日常点検等の際に資格者としてのスキルを活用することができます。点検等の結果を通じて防水や外壁等の劣化状態や機能・性能を把握することで、診断や修繕・改修の必要性を判断できます。
- 建築・設計プロジェクトへの参画:新しい建物や改修プロジェクトにおいて、設計の最適化等をサポートし、効率的なシステムの導入等に資することができます。特に、改修プロジェクトにおいては、現状の建築基準法等の法令の適合性や改修時点の各部位・部材への要求性能等を考慮した仕上材の導入等、専門性が活かされます。
- 建築仕上等の災害対策・安全性評価:近年、外壁等の非構造部材についても、単なる劣化等への安全性だけでなく地震への耐震性についても注目されております。外壁の落下等の事故だけでなく地震への耐震性についても診断・評価し、補修・改修等提案を行い、建物利用者の安全性だけでなく企業のBCP等策定にも資することができます。
- マンションの大規模修繕等:マンションにおいては10数年に一度の大規模修繕が必要となるといわれております。大規模修繕を行う前に重要となる屋上防水・外壁等の診断業務や長期修繕計画の作成・見直し等のコンサルティング業務等にも建築仕上の専門家としての資格が有効です。
3. 建築仕上診断技術者の診断事例等について
① 築古集合住宅の診断と改修工事提案(建設工事業)
築40 年の建物で集合住宅、外装はモルタル塗りの上塗装仕上げとなっている建物で1回目(10 年前)、2回目の大規模改修工事に携わった。外壁の目視・打診調査を実施し、図面をデータ化して10 年前の躯体調査と照合しました。ひび割れや浮き・爆裂欠損等の劣化発生状況・発生場所の動向を比較し、補修工法を検討したが、更新講習テキストにあるひび割れの発生及び挙動に対する方位や日照時間の検証、過去の浮き補修(アンカーピンニング部分エポキシ樹脂注入工法)実施部位の残存浮きの発生に対する考え方など、工法を検討する上で非常に参考となった。また、建物オーナーに対する説明にも大いに役立った。
② ビルメンテナンス業務における資格の活用について(ビルメンテナンス業)
ビルメンテナンスを主体とした事業を展開している会社に勤務しているが、お客様の所有する建築物や用途は多種多様で、また、築後の年数も多様で、様々な問題を抱えている。ビル総合管理だけの知識では、解決できない問題、例えば、内外装の老朽化による物理的な現象など、通常のビル管理の知識ではたどり着けない原因が潜んでいるような場合に、仕上診断の知識やスキルが役に立ち、原因の解明になり、お客様にもわかりやすく説明することができた。
屋上や窓周り、玄関周り、バルコニー周りなど、事象が起こりやすい箇所を定期的に点検し、オーナー様に報告することで、注意喚起を促し事故を未然に防ぐよう留意している。
ビルメンテナンス業においても、同業他社が乱立する中で、差別化につながり弊社の成長に
も役立っていると感じる。
③集合住宅の診断・長期修繕計画の見直し提案(建設工事業)
1回目の大規模修繕工事の実施に際して、管理会社・施工会社の利害関係が無い第三者として客観的なアドバイスを求める為に長期修繕計画の見直しを依頼された。新築当初 20 年の期間の計画であったが、大規模修繕工事を控えた管理組合や修繕委員会の皆様の色々な声にお答えし、建物の状態や管理組合や修繕委員会の皆様が望む品質等の情報をもとに、いつ頃実施するのが良いのか、どの部分を優先的に行った方が良いのか等の診断及び提案をした。
調査に際して、住民の方への事前アンケートを実施し不具合や気がついた事を把握し参考とし、また、不要かつ高額となる破壊試験等は行わず目視・打診・触診等で調査し、手の届かない場所や打診調査が困難な個所については赤外線サーモグラフィーを用いて表面温度法等の方法で調査した。
診断結果と修繕計画の提案に関して、外部の劣化が軽徴である箇所については当初計画より 3 年程度は伸長すること、また、積立金も不足していたことから漏水のリスクを回避する為、立入可能な屋上及びルーフバルコニーの防水工事だけを 2 年以内に先行して実施し、その他の地上共用部、各階共用廊下、外部階段、エントランスホール、外構周り及び外壁等は 5 年後を目度に実施する計画を提案した。
その後管理組合の総会で、「参加者皆が建物の状態を知る事が出来たので、大規模修繕工事の内容を決める際にも合意形成が容易になりそうだ。」等の御礼のお言葉を大変多く頂き、とても嬉しく思った。
*その他、資格を取得した方からの声をこちらでご覧いただけます。
4. 建築仕上診断技術者の受験者について
資格を取得したい方、各種建築仕上げの診断内容を基礎から体系的に学びたい方、公共施設や民間商業施設、マンション等の大規模改修の診断、計画、施工などに従事されている方は、ぜひご参加ください。
毎年、総合建設工事業や外壁や防水等各種の専門工事業の技術者はもとより発注者、設計者、ビルメンテナンス等の幅広い業種の方々にご参加いただいています。
●建築仕上診断技術者の概要については「こちら」をご覧ください。
●令和7年度の受講については「こちら」をご覧ください(後日公開予定)。
本ページの問合せ先:公益社団法人ロングライフビル推進協会 資格推進部