紀伊國屋ビルディング

第33回BELCA賞 ロングライフ部門

紀伊国屋ホール
新宿通り側広場
1階店舗入口
1階廊下
書店内部

建築物概要 ―Outline of Architecture―

選考評 ―Selection Commentary―

 紀伊國屋書店は、1927年に現在地の新宿に木造2階建て38坪で創業し、1947年前川國男の設計により延床181坪で2階にギャラリーを併設した書店がつくられた。その後、紀伊國屋ビルディングとして1964年に生まれ変わり、それから60年、文化・芸術の交流の場として多くの人に愛されてきた。前川國男の設計は、ほとんどが公共建築であり、唯一の民間複合商業ビルということだが、東京文化会館を設計したチームが担当したことで、外観のアール型の庇やホワイエ床の三角タイル、ホール客席壁面の向井良吉氏の反射板など、東京文化会館との関連性が垣間見えるのが面白い。また、外壁側壁の打込みタイルは、コンクリート打ち放しの時代からの転換期に属しており、歴史的にも貴重な作品である。

 60年の間、継続してリニューアルは行われて来たが、2013年に、耐震補強を行ってこの名建築を保存活用し続けていくという決断がなされた。改修のコンセプトは、

1.時代にふさわしい文化、芸術、情報の発信拠点となる
2.本を愛する多くのお客様に愛される書店であり続ける
3.紀伊國屋ビルをこの先も守り維持発展させてゆく

であり、このコンセプト通りの魅力的な書店、ホールに生まれ変わっていた。特に、建物を貫く通路は、完成当時から本に触れる機会と賑わいを生み出し続けて来たが、今回の改修で更にバージョンアップされている。耐震補強の壁を設けたことが、逆に人を奥へ奥へといざなう効果を生み出し、また、貫通通路に対して書店を大きく開くという結果にもつながっている。

 ホールにおいては、長く座っても疲れない椅子への交換、千鳥配置にレイアウト変更など観劇しやすい環境が整備され、天井も耐震化されて安全性も向上している。また、1階の正面にインフォメーションコーナーを復活し、街に向けて情報を発信出来るようになった。正面ファサードは、途中の改修でやや看板建築的になってしまっていたが、今回の改修で、竣工当時により近づけようという努力が見られた。

 建築改修に合わせて実施した消火水槽やキュービクルと発電機の更新に際しては、設置スペースや耐荷重および搬入ルートなどを入念に検討して順番に配置変更しながら、停電を1日だけとし、営業中の困難な工事を可能にした。照明設備は、B1F~3Fの照明器具をLED化し省電力を図り、増加する消費電力に対応させており、今後4F以降の照明器具のLED化も計画されている。また、空調設備および給排水衛生消火設備は、1983年と2023年にほぼ全面的に更新が行われ機能が確保されており、今後も適切な時期に更新が計画されている。

 新宿における情報発信拠点として、また、待ち合わせ場所として、この建物を利用した人は数多くいるだろう。それだけ、人々に愛し続けられてきた建築が、これから先も文化・芸術の交流の場として存続しつづけることをうれしく思う。

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