丸福樓

第33回BELCA賞 ベストリフォーム部門

建物全景
エントランス
ラウンジ
客室(旧住居棟1階)
客室(旧住居棟2階)
ライブラリー(旧事務所棟)
階段(旧住居棟)
屋上(旧倉庫棟2階)

建築物概要 ―Outline of Architecture―

選考評 ―Selection Commentary―

  丸福樓は、任天堂本社としての機能を失いつつも、創業の地において大切に維持管理され続けてきた旧社屋と住居・倉庫をホテルへとコンバージョンした建築である。1930年代から50年代にかけて使われてきたこれらの建築物は、南から旧事務所棟、旧住居棟、倉庫棟とそれぞれが独立して連なり、水平線を強調したライト風の外観、和風の建築要素が加味された造形、アールデコのインテリアなど、京都を代表する洋館の一つであった。職住機能が細長く一列に並ぶ京町家の住まい方を発展させ、昭和初期の趣あるデザインを生かしたホテルとして価値向上、融合させた成功例として大いに評価したい。

 改修にあたっては、①『残すことより歴史や文化という背景に思いをはせられるような再生』、②『新旧の融合』、③『この建物が街とともに生きてきた歴史と風景の継承』、の3点を所有者・設計者・施工者・運営会社4社で基本方針として共有することからプロジェクトをスタートさせている。

 外観は基本的に保存し、歴史的、文化的に価値ある建築として未来に継承することを目指し、「おもてなしの空間」として再生をはかっている。また、入念な調査に基づく耐震診断をおこない、耐力壁の増強による保有水平耐力の増強や、耐震スリット設置による極脆性柱の解消などをはかり、Is値0.67以上を確保している。

 内装においては、暖炉をそのまま残すように客室レイアウトを工夫、アールデコ調の建具をクローゼットの扉として再利用、テラコッタの意匠が施された梁型を丁寧に生け捕りして再設置、既存の幾何学模様の壁紙や壁紙の裏に残されていた色を丁寧に分析してアートや展示作品にするなど、既存建物の歴史的・文化的なデザインの記憶を丁寧に継承しようとする姿勢とその熱情には頭が下がる。また、旧事務所棟2階に設けられたライブラリーの改修に当たっては、任天堂のDNAとして先代から託された理念や哲学、いわば任天堂のレガシーを次世代につなぐという強い思いが込められているようである。

 地球環境への対応という視点でも、環境性能の向上と同時に歴史的なデザインとの調和にこころが砕かれている。窓ガラスのLow-E化による断熱性能向上と空調熱負荷低減、温熱環境シミュレーションによる快適性の追及と空調エアコン室内機の家具や内装デザインとの一体化。照明設備では既存照明をできるだけ再使用、電球のみのLED化での省エネ、新設照明器具デザインの室内意匠との調和、などがはかられている。また、屋外キュービクルやエアコン室外機は、消音対策を施した目隠し壁の内側に配置され、調光機能付の外部照明によって建築全体の夜の風景にも配慮するなど、きめ細かな周辺環境への配慮がなされている。

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