国立代々木競技場

第33回BELCA賞 ベストリフォーム部門

第一体育館外観
第一体育館内部
第一体育館コンコース
第一体育館ロビー
第一体育館貴賓室
第二体育館外観
第二体育館内部

建築物概要 ―Outline of Architecture―

選考評 ―Selection Commentary―

 昭和39年(1964年)の東京オリンピックを機に建築家・都市計画家の丹下健三氏らにより設計された本施設は、当時の技術を結集した吊り構造による象徴的な外観と壮大な内部空間を創出した戦後モダニズム建築の代表作である。

 本施設は、東京2020オリンピック・パラリンピックの会場となることを見据え、「日本を代表するスポーツ施設として、またコンサート等の文化的イベントの会場として、皆様に利用して頂きたい」というビジョンのもと、安全性向上と機能性向上を図った改修を実施している。今後長きに渡り社会的・経済的に存続させる上での必要不可欠な処置を現代に実施する一方で、むしろ世界文化遺産への登録も目指されている中で、ブルータルかつ優美な造形性や構造的革新性、二度の国家イベントの会場となった歴史的象徴性等、オリジナルの持つ唯一無二の価値を次世代に受け継ぐ上で、やむを得ず改変を伴う改修については、後世に引き継げるように配慮するという「割り切り」が主題であったように思える。そうした視点で見ると、オリジナルへの影響を最小限に抑え、多角的に実施された本改修は所期の目的を見事に達成している。

 耐震改修に当たっては、主要構造部である下部構造の耐力を確保するための主塔及び地下客席下部を中心にした耐震壁の増設・増厚補強、屋根構造の吊り鉄骨梁のプレート補強や座屈補強、またアリーナ天井の内観を変えずに耐震化するための、天井材のアルミエキスパンドメタルやアルミ押縁材の再利用、さらには第二体育館の構造的偏心や耐震脆弱性を、現代の解析技術と創意ある補強・修正技術により改修したことは特筆に値する。また安全性向上に関しては、「東京2020アクセシビリティ・ガイドライン」に準拠する計画として手すりの追加、スロープ追加等のバリアフリー化を行い、災害対策としては断水時でも利用可能なトイレの採用等により地域のレジリエンスを高めている。運用面においても、屋根への遮熱塗装、高効率熱源機、高効率LED照明器具等を採用し、これら対策で生まれた電力の余裕分をイベント電源に利用する等の効率化が図られている。 改修後の令和3年(2021年)に、意匠的にも技術的にも秀でた戦後モダニズム建築として重要文化財に指定されている。「原則、原形を維持する」という基本方針のもと、今後も中長期保全計画が確実に実行され、戦後建築の金字塔として、世界的な価値を維持し続けることを期待する。

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