旧本多邸│第35回BELCA賞

南側外観

建築物概要 ―Outline of Architecture―

小屋裏
居間
2階客間

選考評 ―Selection Commentary―

「利用の時代」という概念が少しずつ広まりつつある。建築を設計、建設し、運用する中で、建物の活用段階における計画性や利用方法のフレキシブルな工夫の重要性、それによる建物の健全な維持や活動の継承に、さらなる焦点を当てていこうという考え方だと理解できる。その中では設計者も施工者も建物に対する接し方の変化を求められていると考える。新築建物の設計、施工だけではなく、竣工後の建物の運営や維持管理により積極的にその役割を担っていく「変化」が求められているといってもいい。

その「変化」が求められる中で、建築設計事務所という組織において重要なことは何だろうか。現代日本においては、創始者の活躍と作品が大きな力となり、多くの良質な社会資本を世に送り出すという使命を果たしてきた集団が、その思想を少しずつ次のフェーズに昇華させていく必要があるように感じる。この旧本多邸は元設計者が創始者である建築設計事務所の設計で見事にその姿をよみがえらせた。行政とのつながりや、地元住民との関係構築の試み、建築設計事務所による活用を通じて、再び血が巡る建築となったことは、それ自体素晴らしいことだと考える。

旧本多邸は登録有形文化財としての価値を最大限に尊重しつつ、現存材料や外観の保存を徹底した上で、建物自体を環境実験装置として活用する先駆的な取り組みが特徴である。合掌梁の小屋裏空間を「集熱チャンバー」として利用し、熱循環ダクトを通じて暖気や排熱を効率的に制御することで、断熱・気密性能が低い文化財建築にパッシブな環境改善策を導入している。また,季節ごとのダンパー切替えや自然通風の活用など、立地や建物特性を巧みに読み解いた設計力も高く評価される。さらに、2070年までの長期維持保全計画を策定しており、文化財の原型を保存しながら快適な利用、環境配慮を両立した実践例である。一方で、そのような工夫を凝らし、再び得た命を目の前にしたときに、この建物が未来永劫生き続けるための糧をどこに求めるのが得策なのか、大きな宿題を突き付けられた感覚を覚えた。強い思いで再び命を得た建築を如何に運用し、活用して行くべきか、その中での活動や人との結びつきだけではなく、経済的な継続性まで含めて新しいフェーズにおける在り方の模索が必要不可欠である。その中で、この建築に再び命を吹き込むにあたり、次代を担う有望な建築家や技術者が施工段階を含めて見届け、その課題にも真正面から取り組んでいることに大きな期待を感じた。

ページ上部へ