第29回BELCA賞ベストリフォーム部門表彰建物

近三ビルヂング

所在地

東京都中央区日本橋室町4-1-21

竣工

1931年

改修年

2015年

建物用途

事務所

建物所有者

近三商事

改修設計者

樺|中工務店、三機工業梶A葛g成電気工業所

改修施工者

樺|中工務店、三機工業梶A葛g成電気工業所
 近三ビルヂングは、1931年(昭和6年)村野藤吾独立後初の作品として日本橋室町に建設された、築88年のオフィスビルである。村野自身が「考え抜いた作品」と語り、後にブルーノタウトが日本を訪れた際「永遠の傑作」と評したビルである。ビルオーナーは、竣工当時から親子4代に渡り近三ビルヂングへの強い愛着を持ち続け、「村野藤吾の初期作品を後世に遺す」という理念のもと、2度の増築工事と外壁改修を経て、1993年に第3回の BELCA賞ロングライフ部門を受賞している。
 今回の改修は、利用者に対する安全性・快適性・省エネ性能の向上を目的として行っており、@外観を変えない耐震補強、A120歳までテナントの誘致を可能とする快適なオフィスビル、B環境に優しい省エネビルを実現する改修であった。
 @の耐震補強は8年間のインターバルを取って2ステップに分けて行っており、第1ステップは昭和初期のビルゆえに存在したライトコートを耐震コアに利用し、第2ステップとしては「外観に影響が無く、窓部内観イメージも変えない」外壁の室内側増し打ちと、テナント区画に使える耐震壁敷設で対応している。このことにより 貸室面積が減少しているが、二方向避難を確保して安全性の向上を計るとともに、何よりも村野の作品を後世に遺すために安全な建物にするという、強い意志を感じることができる。
 A Bともに関連することであるが、高効率な熱源・自動制御システム・VAV制御への更新や、気象・降雨センサー連動制御に加え、BEMSを導入し30分単位のデマンド値のモニタリングを実施している。テナントへ使用電力を見える化する情報共有により、節電意識の啓蒙活動も行っている。これらによって築88年のビルでLEED-v4.0のGold認証を取得し、テナントから「温度・湿度管理が行き届いた快適で居心地の良い執務空間」であるとの評価を得ている。オーナー自らの手で維持保全管理を行っており、自ら日々テナントへの調査と改善の研究を行いながら「120歳までテナント誘致可能な快適なオフィスビル」を探っている。
 「村野作品ということで入居したテナントはいない」という言葉が示すように、基本的なオフィスの性能で最新のオフィスとテナント誘致を競っていることが、却って村野作品の現役オフィスビルとしての持続可能性を物語っているようであり、村野がいう「考え抜いた作品」の証左でもあろう。
 新しい街に変わりつつある日本橋室町にあって、88年という時を経ていまだ当時の佇まいを残す建築と、それを後世まで遺したいと願うオーナーの幸せな関係が永く続くことを願う。

29回BELCA賞に戻る

BELCA賞トップに戻る