建築・設備総合管理士 資格取得のメリット、活用事例等
建物を安心、安全、快適に利用するには、適切に維持管理をする必要があります。適切に維持管理を行うためには、その建物にどんな部位・部材、設備が備わっているのか、備わったものがどんな役目を担っているかを知っている必要があります。備わっている部位・部材、設備の種類・目的に応じて、それぞれを適切に管理するために建築基準法、消防法、建築物衛生法等により、日常的、定期的な清掃・点検等の対処が求められます。その他、清掃による美観の維持・向上や警備・防災等の体制を整えることも求められます。また、建物をライフサイクルで考えた場合には、部位・部材、設備について物理的・社会的な劣化への対応が必要になり、これは長期的な視点で対応を検討する必要があり、限られた予算を効率的・効果的に利用するには、部位・部材、設備への診断や修繕・更新等を計画的に行うことが求められます。
このように、建物の運用管理については、広範な分野についての知識が必要となり、短期的な維持管理だけでなく長期的な視点に立って各種業務に専門分野の技術者等を配置し、統括して、計画的に維持保全を行うことが重要であり、これらを積み重ねた上に、建物の資産価値の維持・向上があり、ひいては建物のロングライフ化につながります。
「建築・設備総合管理士」は、建物の日常の運営管理や、物理的劣化、社会的劣化等を勘案して、建物のライフサイクルをマネジメントを行う資格者です。
「建築・設備総合管理士」の資格は、建築・設備に関する維持保全(建築・設備の日常・定期的な管理業務や長期修繕計画の策定等)に関して体系的にカリキュラムが組まれた講習を受講し、講習の修了が認められ登録された者に与えられます。また、協会が定めたライフサイクルマネジメント指針を踏まえた施設のマネジメントを行います。また、必要な最新の技術や知識を学ぶため5年に一度、更新講習の受講等を経て資格者登録の更新を行っております。
建築・設備の維持保全は施設を利用する人の利便性、快適性を保つ上でも重要な要素になります。また、建築物は街並みを構成する資産でもあり、利用される建築・設備の安全性、省エネ性、耐震性等の確保は、社会からも求められるものです。
施設の総合的な管理・運営は、施設を利用する人々・企業のためだけでなく、周辺環境から地球環境まで含めた良好な建築ストックの形成にも資するものであり、建築・設備総合管理士は、これらに貢献できる専門家になります。
1. 建築・設備総合管理士を取得するメリットについて
- 建築・設備総合管理士は、建物のライフサイクルを見据え上での維持保全計画の作成、また、計画実行に伴う施設の日常的な運用管理、劣化等への対策のための長期修繕計画の作成・見直し、専門家の行った診断結果等を元にした、補修や改修等の維持保全に適切な提言が出来る知識・能力を持った専門家として認定されます。
- 資格者としての認定を受けることで、統括的に施設の運営管理業務を行い、また、建築物の各種部位・部材、設備の状態や性能を総合的に把握・評価して、長期的な視点でそれらの劣化等への対策を行える専門家として日頃の業務の信頼性が高まります。
- 今後、補修や改修を必要とする既存建築ストックが増加していく中で、安定的な建物運用や建物利用者や社会的なニーズに対応するための改修計画等に頭を悩ませるオーナーに建物の状態等を踏まえたうえで建物のライフサイクルを見通したアドバイスをできる専門家として、建築・設備総合管理士の資格を活かして、多岐にわたる分野で活躍することができます。
- 少子・高齢化により人口減少が進む中で、自らの専門性や技術を資格という形で客観的に評価され提示できることは、競合者に対して有利に働く他、後進の技術者に知見を伝えることなどにより所属企業だけでなく、広く社会への貢献にもつながります。
- 次世代の技術者の教育・指導の際に、資格というかたちで経験・専門性を簡単に証明することができ、様々なことについて根拠をもって教えることができます。また、専門家として独立開業等する場合にも建物の総合的な管理や長期修繕計画の作成等の業務を行えるコンサルタント等として専門性をアピールできます。
- 資格取得後も更新講習があり、最新の法令改正や技術の状況等を得ることができます。また、継続的な知識・技術の習得に務めていることの証明になります。
- 公共施設の管理等業務の入札時に「建築・設備総合管理士」等が要件とされている場合があります。また、民間建築物の診断・改修等業務において発注者から「建築・設備総合管理士」が指定されることもあります。
「建築・設備総合管理士」の配置が要件とされた入札事例
X市(政令指定都市)都市局市街地整備部 市営住宅 排水設備配管等診断業務に係る一般競争入札(業務委託仕様書より抜粋)
・有資格者の配置
受託者は、業務の遂行にあたり⑴、⑵の資格を有する者(以下、「有資格者」という。)を配置し従事させること。なお、⑴については直接雇用契約関係にある者の中から配置すること。
⑴ 建築・設備総合管理士(公益社団法人 ロングライフビル推進協会)または建築設備診断技術者(公益社団法人 ロングライフビル推進協会)の資格を有する者
⑵ エックス線作業主任者の資格を有する者
Y県Z建築物 配管劣化調査委託に係る入札 (特記仕様書より抜粋)
・作業責任者等
本調査に従事する者のうち、建築・設備総合管理士(公益社団法人 ロングライフビル推進協会)又は建築設備診断技術者(公益社団法人 ロングライフビル推進協会)の資格を有する者を配置する。
なお、作業に従事する者のうち、エックス線作業主任者の資格を有する者を配置する。
2. 建築・設備管理士の活動分野について
- 建築物の維持管理に関する業務:公共・民間にかかわらず、建物の維持保全計画の策定や、運用に係る体制の構築と統括を行い、施設の適切な運用、各部位・部材、設備の機能維持や資産価値の向上に資する業務を行います。
- 建築物の長期修繕計画等の作成業務:建物の維持管理にかかわり経験を得ることで実態に即した長期修繕計画の作成に資することができます。
- 建築設備の点検等維持管理業務:各種設備の日常点検等の際に資格者としてのスキルを活用することができます。点検等の結果を通じて設備の劣化状態や機能・性能を把握することで、診断や修繕・改修の必要性を判断できます。各種設備の運用状況やエネルギーの使用状況等の把握、改善提案等に際して資格者のスキルを活用することができます。
- 建築物の診断結果をもとにした保守、修繕・更新、改修等の提案:建築にかかる専門家からの各種部位・部材、設備の診断結果から物理的劣化・社会的劣化を総合的に評価し、維持管理の方針や顧客等のニーズに応じた適切な補修・改修の時期・方法を提案することができます。また、自身が建築士や診断に係る資格等を持っている場合には、より高度な改修等計画を検討することが可能です。
- 建築・設計プロジェクトへの参画:新しい建物や改修プロジェクトにおいて、建物の所有者や管理会社に対して、施設の維持管理を考慮したアドバイスを提供することができます。また、運用面を考慮した効率的なシステムの導入等に資することができます。特に、改修プロジェクトにおいては、改修時点での建築物の状態に対して建築基準法等の法令の適合性や改修時点の社会的な要求性能等を考慮した設備機器の導入等、専門性が活かされます。
- 施設の災害対策・安全性評価:日本は地震が多い国ですが、近年建物については耐震性を高めることだけでなく、被災後の施設の継続利用・事業継続についても注目されております。被災後の事業の継続性については、躯体の耐震性だけでなく各種部位・部材、設備についての耐震性が求められるほか、日頃からの点検等による、状態の把握が必要です。火災等の事故だけでなく地震等災害へ施設がどれだけ耐えられるか、運用できる状態にあるかを点検・診断結果等をもとに総合的に把握し、建物利用者の安全性だけでなく企業のBCP等策定にも資することができます。
- 省エネルギーに関するコンサルタント業務:設備のエネルギー効率を評価し、省エネルギー化や環境に配慮した運用、改善方法を提案することができます。
3. 建築・設備総合管理士の資格活用事例等について
① 某市の分譲マンションアドバイザー派遣事業の登録・活動(設計者)
某市では、一定の専門的な資格を持った者を登録して市内のマンション管理組合から相談を受けた時、派遣してマンションの管理に必要な知識・情報を提供してマンションの所有者、管理組合の自立的運営や適切な管理を支援する事業を行っているが、市担当者より「一級建築士であってBELCA の建築仕上診断技術者(非構造)の資格と経験があり更に建築・設備総合管理士(ビルライフサイクルマネジャー)に登録されていることから一番の適任者であると判断した」とのことから、同事業のアドバイザーとして登録・活動をすることとなった。
年に数十回声をかけられ、マンション管理組合の理事会に顔を出し、維持保全の有り方、大規模修繕の時期、工事費、注意点など質疑応答形式で参画している。管理組合の方へ、「建築物の長期保全の意義や方法は、人間ドックのようなものです」と伝えたところ、人間ドックと同じように考えればよく納得し易いようでよく理解していただいた。事後保全より予防保全が大事であると考えているが、総合的に考えられる「建築・設備総合管理士」の立場を重宝がられる。
② 運用資産である商業ビル等の適切な運営管理、改修計画の提案(アセットマネージャー)
建築基準法や消防法などの法改定について情報提供を受けており、運用資産である商業施設等の既存不適格より現行法に速やかに対応できている。また、運用物件の各種調査・点検結果をもとに適切に建築、設備の現状を把握することができ、保守、修繕、改修等を計画的に実施している。また、脱炭素に向けた建築分野の提案についても取り組んでおり、仕上げ材の調達等においても、「環境や人の健康に被害をあたる物質を含んでいない」、「資源やエネルギーの消費・排出が少ない」等、様々な事項を考慮している。
運用においても、ESG(環境・社会・ガバナンス)に配慮し、入居テナントとコミュニケーションを図り、協働して、環境負荷低減するための取り組みを検討している。適切な維持保全で資産価値の向上を生み出し、テナントに満足いただける建物になるよう、ビルライフサイクルマネジャーとして、維持保全計画の作成や関係技術者を統括・活用して維持管理業務を推進している。
③ 某登録有形文化財の劣化診断、総合的な改修設計(設計者)
築50年を経た登録有形文化財の改修するか建て替えるかの検討のための、診断を行った。建築仕上、設備の劣化診断と共に耐震診断を実施し、これらの結果を総合的に検討し、耐震改修だけでなく、意匠性を考慮して外部に面する箇所や設備についても同時期に工事を行う総合的な改修計画を提案した。建築の仕上や設備の劣化状況を総合的にとらえて不具合箇所と現状施設に求められている機能と合わせて改修計画の提案ができたのは、建築・設備総合管理士の知識があったからだと思う。
*その他、資格を取得した方からの声をこちらでご覧いただけます。
4. 建築・設備総合管理士の受験者について
資格を取得したい方、建築物の運用等を基礎から体系的に学びたい方、公共施設や民間商業施設で委託者として施設管理に携わる方、ビルメンテナンス業の方、マンション等の大規模改修の診断、計画、施工などに従事されている方は、ぜひご参加ください。
毎年、設備工事・建設工事の施工者はもとより発注者、設計者、ビルメンテナンス等の幅広い業種の方々にご参加いただいています。
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本ページの問合せ先:公益社団法人ロングライフビル推進協会 資格推進部

