令和7年度建築物のロングライフ化に資する研究支援事業の支援対象の選定について
建築物のロングライフ化に資する研究支援事業の支援対象(令和8年3月論文提出分)を公募した結果、9件(内、博士課程1件、修士課程8件)の応募があり、これらを対象として令和8年1月15日に下記の選定委員会にて審査し、4件の研究を支援対象として選定いたしました。
●選定委員会
委員長 坊垣 和明 東京都市大学 名誉教授
委員 伊藤 弘 一般財団法人 日本規格協会 スタンダード・コンサルティングセンター
フェロー
北山 和宏 東京都立大学 都市環境学部 建築学科 教授
輿石 直幸 早稲田大学 理工学術院 教授
中津 忠 株式会社大林組 東京本店建築事業部 統括部長
白井 清広 BELCA専務理事
●選定論文
審査の結果、以下の研究を選定しました。
| 原子力発電所の高経年対策を目的とした中性子照射による骨材膨張量評価システムの構築 神田 悠人 東京大学大学院 工学系研究科 建築学専攻 修士課程 |
| 住宅におけるダンプネスシミュレータの開発 物理量に基づく評点算出式の導出とシミュレータによるダンプネスの建築的防除策の検討 江原 信一 前橋工科大学大学院 工学研究科 建築学専攻 修士課程 |
| 将来地震を考慮した地震被災RC 造建物の復旧費用と経済ロスを最小化する復旧計画立案に関する研究 山本 暁 東北大学大学院 工学研究科 都市・建築学専攻 修士課程 |
| 複数の混和材と少量のセメントを用いた低炭素型セメント硬化体の性能予測 小林 知大 東北大学大学院 工学研究科 都市・建築学専攻 修士課程 |
●選評
総評
建築物のロングライフ化に資する研究促進の一環として、本事業は平成16年度(2004年)に開始され、一部期間を除いてほぼ毎年実施され、今年度で第14回を数えることになった。
今回の応募件数は9件となり、昨年(5件)の2倍近い応募をいただいた。9件はいずれも優れた成果が期待できる研究であると感じた。分野別では、構造・材料・環境に加えて、施工・計画と多岐にわたり、関心の幅広さとロングライフ化の研究の多様性を示すものであった。
応募された研究は、審査委員全員による一次審査(3段階による評価)を経て検討した結果、4件を支援対象とした。二次審査では、全件について改めて研究テーマの設定や研究計画、並びに成果の見込み等について審議し、これに一次審査の結果を指標化した資料と各委員の評価コメント等を含めて慎重に審議し、審査員の全員一致で支援対象を決定した。これらの論文は、新規性に富み着実な成果が期待されるもので、建築物のロングライフ化への貢献が評価されたものである。ちなみに、支援対象は一次審査の指標化結果でも上位4位に入るものであった。
前年度より応募件数が増えた理由として、募集期間を延長したこと、本事業が建築系学科事務室だけではなく教員個人にも直接届くように、周知方法を見直したことなどがあげられる。引き続き、広範な周知による応募増を期待したい。なお、本年の応募研究はロングライフ化に資する内容ではあるものの、ロングライフ化への貢献はやや間接的なものにとどまっていたと感じる。より直接的な効果が期待できる研究の応募を期待したい。 最後に、応募いただいた院生並びに指導教官の皆様に御礼申し上げるとともに、建築物のロングライフ化に向けた引き続きの取組み・貢献を祈念したい。
(選定委員会委員長 坊垣 和明)
選評
①「原子力発電所の高経年対策を目的とした中性子照射による骨材膨張量評価システムの構築」
原子力発電所において、原子炉格納容器の生物遮蔽壁や原子炉圧力容器を支える円筒形の土台には放射線遮蔽能力に優れたコンクリートを用いるが、放射線照射によって劣化が進行する。主な劣化原因はガンマ線による脱水と中性子照射による骨材膨張であり、その結果、コンクリートにはひび割れが発生する。本研究は、これまで検討が不十分であった後者について、骨材中に存在する鉱物の含有量、径および空間的配置を考慮した数値解析による骨材膨張量の評価手法を確立しようとしている。種類の異なる骨材を用いた原子力発電所においても稼働中に構造安全性の評価が可能であり、逆に骨材の膨張から中性子照射量が評価できることを指摘している。
原子力発電施設という特殊な建築物を対象としており、大多数の一般建築物のロングライフ化との関係性がやや薄いという意見もあったが、研究テーマの社会的意義、研究方法の堅実性、研究成果の実用性などが高く評価された。
(委員 輿石 直幸)
②「住宅におけるダンプネスシミュレーターの開発 物理量に基づく評点算出式の導出とシミュレータによるダンプネスの建築的防除策の検討」
ダンプネスの防止が、住宅の長寿命化や居住者の健康増進に寄与することは、従来の研究により明らかになっている。一方で、室内環境を定量的に評価する手法は十分に確立されていなかった。
本研究では、住宅居住者へのアンケートを通じて、「結露・カビの発生状況」および「カビ臭」を24点満点で評価し、これらの主観評価と実測された物理量との相関を分析している。
その結果、数値シミュレーションによって住宅のダンプネスの程度を算出することを可能にした点は、住宅のロングライフ化に資する有意義な試みであると評価できる。
一方で、本研究成果をどのように実務や設計、維持管理に活用していくのかが明確ではない点が課題として挙げられる。また、標準的な住宅モデルに加え、気候条件や断熱等級の異なる住宅など、多様な条件に対応可能な研究へと発展させることが望まれる。
さらに、アンケート調査を全国規模に拡大し、調査対象数を増やすことで、数値シミュレーションの精度を高めることができれば、より汎用性と実効性の高い評価手法になると考えられる。今後の研究の深化と展開に期待したい。
(委員 中津 忠)
③「将来地震を考慮した地震被災RC 造建物の復旧費用と経済ロスを最小化する復旧計画立案に関する研究」
震災建物の復旧には耐震性の確保、事業継続性の評価、快適な日常生活の再建など考慮すべき事象が複雑にかかわるため、最適な復旧計画を早期に立案する手法は研究途上にある。本研究は地震被害を受けた鉄筋コンクリート建物を対象として、復旧費用と復旧期間中の経済損失だけでなく将来発生が予測される地震リスクも統合して評価することで合理的な復旧計画の立案に資する指標を提案するものであり、意欲的な研究であると高く評価される。
従来の震災復旧では建物全体の補修あるいは建替えが為されることが多い。本研究では、性能回復に有効な部材を選択して補修することが将来地震の被害抑制も伴いながら合理的な選択肢となり得ることを示した。しかし、一般的なライフサイクルコスト計算では考慮すべき項目が多く、非構造部材を含めた損傷部材の選択的補修の手法や復旧後の地震リスク評価等の技術的課題も多い。本件に対する社会認知の促進を図るとともに現場への実装を目指した研究となることを期待する
(委員 北山 和宏)
④「複数の混和材と少量のセメントを用いた低炭素型セメント硬化体の性能予測」
低炭素型コンクリートの技術開発は、以下の3つに大別される。
① セメント置換型(低減型)
② CO2固定・吸収型(カーボンリサイクル型)
③ CCU(Carbon Capture and Utilization)材料活用型
本研究は① セメント置換型(低減型)に該当する技術で,製造時に大量のCO2を排出する「セメント」の代わりに、複数の産業副産物系混和材(高炉スラグ、フライアッシュ、シリカフューム)を用いて,セメントを置換することで、CO2排出量を削減しようとするものある。
異なるセメント置換率(0、50、95%)のモルタル試験体を対象として,低炭素型セメント硬化体の性能について、力学性能(圧縮・引張強度、密度、ヤング率)や環境性能だけでなく、機械学習を活用して,建築物の寿命を左右する長期の耐久性能(中性化深さ、塩化物イオン浸透抵抗性)に至るまでの性能を明らかにする研究である。将来のフライアッシュの生産量減少などを踏まえ,長期の耐久性等を維持しつつ低炭素型コンクリートを実現する技術を期待したい。
(委員 伊藤 弘)

