総評および部門選考評│第34回BELCA賞

総評

BELCA賞選考委員会
委員長 三井所 清典

ロングライフ部門選考評

BELCA賞選考委員会
副委員長 川瀬 貴晴

今回、第34回BELCA賞表彰全10件の中で、ロングライフ部門は3件であった。これらの建設年は1960年、1926年、1900年であり64年~124年というロングライフの建物である。今回はロングライフ部門、ベストリフォーム部門共に例年に比べ多くの優れた建物の応募があり選考には苦労した。選ばれた建物は、皆関係者により時代を超えてその機能を維持する努力が行われ、人々に愛されて来たことが選考者に強く伝わってきたものである。

「九州工業大学 鳳龍会館」は、九州工大前駅から徒歩10分弱の戸畑キャンパス正門を入ってすぐのところに木立に囲まれて建つ会館である。当初は事務棟であったものを2008年に大規模改修し会館として利用されている。このときの改修では竣工時の記録なども参照しながら丁寧な施工が行われているが、当初の面影を残しつつ会館として利用するために内部の間仕切り等を整理したために6.4m角の正方形ユニットを10個並べた平面形状が竣工時よりもはっきりと現れていて、透明感も増したのではないかと思われる外観となっている。これまでの保全・改修に対する取組だけでなく、キャンパスマスタープランの中で歴史的エリアの重要要素として位置づけ、今後の維持管理面の取組もしっかり行われることが想定できたことも評価された。

「求道学舎」は、文京区本郷に建つ3階建ての集合住宅である。求道会館の左横の小道を通り巨大なヒマラヤスギの先に玄関がある。約100年前に学生寮として建設され2006年に10戸の共同住宅に改修された。このとき従来の外観を保ちながら機能は現代の住宅に、法適応や金銭的な面での困難を克服し改修され、建築主と居住者のロングライフ化への取組の熱意と努力も含めて評価された。改修時に定期借地権が設定されその期限は2068年である。この時点で築142年になるが再度定期借地権の設定が行われれば日本最初の200年RC住宅になることも想定されている。今後の大規模改修やその資金手当てなどについても考慮がなされているが200年RC住宅が実現されることを期待したい。

「瀬戸永泉教会」は、将棋の藤井王座の顔出し看板が置かれた名鉄尾張瀬戸駅から徒歩15分弱に位置する小さな木造教会である。瀬戸永泉教会は1888年に設立され、この教会堂は1900年に建設された。国指定登録有形文化財であり、愛知県でキリスト教の礼拝が行われている教会として最古の木造教会である。経年による劣化が進む中2018年に改修設計方針を決定し、2022年に改修工事を完了した。このときの工事では限られた資金で設計者と教会員、施工者の知恵と工夫を寄せ合って必要最小限の改修・修繕が行われている。100年を超える時を超えて地域の人々に支えられ愛され活用されているこの建物はロングライフ賞にふさわしいものと評価された。

建物のロングライフ化には時代の変化に応じた保全・改修が必要であるが、最近は省エネや省CO2に対する考慮も求められるようになってきた。このCO2排出量削減については今までは施設運営にかかわるエネルギー消費由来のCO2排出が問題であったが、最近は建設時や建設資材や材料あるいは設備機器製造時のCO2も問題となりつつあり、そのCO2排出量を計算する手法なども整備されつつある。この建設資材等を含めた建設時のCO2排出量は大きいので、建物のロングライフ化はCO2排出量削減という視点からも重要である。日本は2050年までにカーボンニュートラルを実現することを目標にしているが建物のロングライフ化はカーボンニュートラルという視点からも推進が望まれる

ベストリフォーム部門選考評

BELCA賞選考委員会
副委員長 深尾 精一

今回のBELCA賞表彰件数10件の中で、ベストリフォーム部門で表彰されたものは、7件であった。ここ数年、ほぼこのような割合が続いている。また、ロングライフ部門とベストリフォーム部門の境界も、さらに判然としなくなってきており、今回のベストリフォーム部門の表彰作品にも、ロングライフ部門でもよいのではないかと思わせるものもあった。7つの建築の当初の建設年をみると、1910年代・1920年代そして1920年代から1940にかけて建設された、歴史的建造物のリノベーションが4件と過半を占める形となった。1910年代のものの一つは、大規模は木造建築の抜本的な構造改修工事であり、今一つは数寄屋風の木造建築群の再整備である。一方、1920年代以降のものは、初期のRC造・SRC造のリノベーションであり、やはり、文化財的価値があるものであった。

それらに対し、戦後の建築の3件は、1960年代から70年代初期にかけて建設されたもので、BELCA賞の創設期に長寿命化すべきであると考えられていた建築群といえよう。そのような観点からのBELCA賞の部門区分も考えられてよいのではないかと思わせる結果である。

「市谷の杜 本と活字館」は、東京の市ヶ谷の地に印刷工場の営業所として1926年に建設された、初期の鉄筋コンクリート造の建築である。増改築が繰り返されていたが、免震化をするとともに、創建時の状態に戻すべく、丹念な調査を重ねた改修工事である。活版印刷事業の歴史を広く伝えるための展示施設として見事に蘇っており、環境性能の向上、設備の更新と合わせ、ベストリフォームと呼ぶにふさわしい作品である。

「祇園甲部歌舞練場」は、「都をどり」の劇場・芸子・舞妓の稽古場として、1913年に建設された大規模木造建築である。耐震性能の飛躍的向上・設備の更新を主とする改修工事が行われているが、一般的な木造建築とは異なり、鉄骨部材を大規模かつ巧妙に組み込んでいることが、このリフォームの最大の特徴であろう。条例を活用した、建築基準法適用を除外した工事であるが、その代替措置としての設備工事も特筆に値する。

「山荘 京大和」は、1915年に建設された木造の料亭の、厨房やサービス施設を地下化するとともに、耐震改修を行い、東側に新築されたホテルの借景となるように計画されている。また、1918年に建設された二つの茶室は、土砂災害を受ける危険性のある場所から曳家され、いま一つの茶室に隣接させることによって、料亭とともに使いやすい配置となっている。活用のためのプロジェクトスキームも高く評価されたリノベーションである。

「しののめ信用金庫 前橋営業部ビル」は、1964年に前橋信用金庫の本店として建設された、鉄骨鉄筋コンクリート造の建築である。信用金庫の合併を経て、本店機能でなくなったビルを、地域に根差す施設となるよう、躯体も含めた大胆な空間の再構築が行われ、既存建築改修にのみ許されている金融業以外のテナントスペースを設けるなど、改修方針のプログラムが高く評価されるリフォーム工事である。

「シャトレ信濃町」は、1971年に建設された都心に立地する、特段の特徴があるわけではない共同住宅を、見事に再生させた事例である。耐震補強工事には、不要なコンクリート部分の撤去による軽量化など、様々な手法が用いられている。建設時の床スラブでは不十分な床衝撃音遮断性能を、新たな手法を用いて向上させるなど、現代の集合住宅に相応しい環境性能に高めていることなども評価されるべきリフォーム工事である。

「髙島屋東別館」は、1928年から1940年にかけて、百貨店として建設された建築であるが、1960年代に事務所用途として使われるようになっていた。しかし、外観等は創建当初の意匠が保たれており、このたび、インバウンド需要を想定したホテルと、デパートの歴史を展示する資料館、そしてデパートの事務を担当するオフィススペースにコンバージョンしたものである。用途を大きく変更する改修であり、ベストリフォームと呼ぶにふさわしいプロジェクトである。

「防府市公会堂」は1960年に佐藤武夫によって設計された公共建築である。典型的なモダン・アーキテクチャーであり、そのオリジナルデザインを末永く地域のシンボルとして使い続けるよう、必要な改修工事を行った事例である。公会堂としての用途から、需要が増した音楽ホールとしての音響性能に改修するなど、時代の要請に合わせたリフォームが行われており、今後も地域のシンボルとして愛され続けることが期待できる建築である。

以上のように、今回のベストリフォーム部門の表彰対象は、建設年代の古い歴史的建造物の改修工事と、戦後のコンクリートの建物に二分されることとなった。後者には、あまり知られていなかった建築の意欲的な改修事例もあり、バラエティーに富んだものとなった。その中で、大幅な用途変更を行ったものが1事例だけであったことも、今回の特徴である。

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