総評および部門選考評│第35回BELCA賞

第35回の総評および両部門の選考評を掲載しています。総評では審査全体を通じた講評を、各部門の選考評では評価の視点や受賞作品の特徴を示しています。本ページでは、計3篇の講評をご覧いただけます。

総評

BELCA賞選考委員会
委員長
三井所 清典

BELCA賞への関心は年々高まっているが、現代社会で活用されるためには、ロングライフ部門でも耐震改修や設備の抜本的現代化が必要であり、ベストリフォーム部門でも建築寿命の長期化に伴い、利用者の建築への愛着が重んじられる傾向が深まっている。そのような事情から近年は両部門の表彰件数は定めず、合わせて10件以内を選考することにしている。本年度はロングライフ部門3件、ベストリフォーム部門7件となった。

今回表彰されるロングライフ部門

  • レンガ積の外観を維持し、天井の耐震改修、空調の省エネ改修等を行い、地域住民に親しまれる文化活動の拠点になっている文化会館:47歳
  • 終戦の前年に軍用航空機の設計本館として建てられた施設を、耐震改修と機能向上の改修を行い、継続的に活用されるようになった大学本館:81歳
  • 選ばれた材料と豊かなディテールの設計、および日常のこまめな維持管理・修繕によって劣化と陳腐化が免れて所有者にも利用者にも愛されている保養施設:53歳

今回表彰されるベストリフォーム部門

  • 最上階の減築と中間階の床を撤去する一方、南北に大庇を設けて機能的で快適な作業空間を生み出した業務ビル:36歳
  • 間柱のような平角材を組せて柱と貫を構成する特殊な木構造によって建設された戦時中の洋風邸宅を復元的な改修で再生させ、地域に開かれた住宅建築:86歳
  • 歴史的建築を保存活用する改修で、1階の公開ロビーや通路と上階利用者のアクセスを整理し、利便性と快適性を向上させたオフィスビル:87歳
  • 既存の事務所ビルを、さまざまな技術を駆使して、省エネ性能と快適性を向上させた環境改善手法のモデル的なオフィスビル:33歳
  • 多目的ホールと会議棟を一体化して、市民が日常的に利用しやすい施設と音楽に特化したホールに生れ変った文化施設:56歳
  • 近代洋風建築の外観を保全し、カフェ、物販、シェアオフィス、通り抜けなどを取り込み、街区の賑わいの向上に貢献している旧銀行建築:107歳
  • 1階の接道条件を重視してアプローチの改修と接道する事務所の窓の改修によって、積極的に街とつながる活動をしやすくした高層のオフィスビル:59歳

今年もベストリフォーム部門が7件と多いが、建築年齢が高い3件は、いずれも文化財的な建築の保全の意図が強く、その意味ではロングライフ部門の性格が強い。

表彰建築物の建築年齢をみると、大正前期の竣工の107歳の建築が1件、続いて日中戦争勃発直後の87歳、86歳の2件、終戦直前の81歳が1件あり、80歳代はいずれも戦中の竣工である。その次は、経済の高度成長期の竣工で、59歳、56歳、53歳の3件が昭和40年代、47歳が昭和50年代の竣工である。若い2つは平成初期の竣工で36歳と33歳の2件であり、30年を経過すると新しい機能や性能の要求があり、改修によって建築の蘇生が図られている。

因みに今回のロングライフ部門の平均年齢は60歳、ベストリフォーム部門は66歳でベストリフォーム部門が若干高齢である。

最後に、建築の長寿命化・蘇生化に努められている関係の皆様に心からの敬意を表します。

ロングライフ部門選考評

BELCA賞選考委員会
副委員長
川瀬 貴晴

今年度のロングライフ部門は、昨年に続き3件の建築が受賞した。1978年竣工の「厚木市文化会館」、1944年竣工の「国際基督教大学本館」、そして1972年竣工の「ヒノキ新薬ルスツ山寮(尻別山寮)」である。竣工から47年、81年、53年という歳月を経て、皆、関係者の真摯な維持管理により、むしろ時を経るごとにその魅力を深めている建築である。

「厚木市文化会館(1978年竣工)」は、開館以来、厚木市周辺の文化芸術の拠点として地域住民に親しまれてきた。これまで実施された2回の大規模改修を経て、耐震性の向上や省エネ化、BCP対応といった機能更新に加え、住民要望を汲み取った利便性の向上が的確に図られている。直近の改修では、建替えと比較して約15,800トンのCO2削減効果を算出した。また、玄関先に営巣するヒメアマツバメを排除せず、環境団体と連携して共生の象徴とするなど、ソフト面での地域貢献も評価された。維持管理を含めたPFI方式の採用による改修工事により、管理者の視点を組み込んだ長期的な運用体制を確立している点も、公共建築の模範といえる。

「国際基督教大学本館(1944年竣工)」は、戦時下の物資統制期、中島飛行機三鷹研究所として建設された大規模RC造建築である。戦後、大学本館として再生され、1953年にはW.M.ヴォーリズによる増改築が行われた。キャンパスの心臓部として、時代ごとに機能を分化・移転させながらも、本館としての象徴性を維持し続けている。適切な耐震補強や設備更新を重ね、現代水準の機能・性能を確保する一方で、戦争遺構としての歴史的価値を保存・継承する姿勢は意義深い。過去の記録を保持しつつ、未来へ繋ぐ真摯な取り組みが高く評価された。

「ヒノキ新薬ルスツ山寮(尻別山寮)(1972年竣工)」は、北海道の厳しい自然環境下で、半世紀以上にわたり活用されてきた保養施設である。本作の真髄は、その徹底した維持管理の在り方にある。一般的な大規模改修に頼るのではなく、常駐スタッフによる日常的かつ小まめな手入れの積み重ねによって、竣工当時の設計意図が鮮やかに保持されている。企業トップの深い愛着のもと、発注者、設計者、施工者、管理者が一丸となって建物を育んできた。建築、設備ともに細やかな補修が継続されており、長期利用に対する関係者全員の熱意が結実した好例である。

今年度、本部門の表彰は3件に留まったが、一方で「ベストリフォーム部門」に応募された作品の中には、本部門で評価されるべき質を備えた建築が散見された。「大幅な改修=ベストリフォーム」という形式的な区別ではなく、改修によって機能を更新し、時代に適合させることで建物の寿命を本質的に延ばしたのであれば、一定期間を経た改修建物の多くはロングライフ部門の評価対象となり得る。 昨今の建設費高騰は、建築界に「新築から改修へ」というパラダイムシフトを迫っている。既存ストックの活用はもはや選択肢の一つではなく、社会的使命となった。今後、建設時のライフサイクルCO2排出量(LCCO2)の算出が義務化される流れの中で、建物を長く使い続けることの環境価値は、数値としてもより厳密に評価される時代になるだろう。今回受賞した3作品のように、過去を敬い、現代の性能を与え、未来へ繋ぐ取り組みが、今後の日本の建築文化の主流となることを願う。

ベストリフォーム部門選考評

BELCA賞選考委員会
副委員長
深尾 精一

今回のBELCA賞表彰件数10件の中で、ベストリフォーム部門で表彰されたものは、昨年と同数の7件であった。ここ数年、ほぼこのような傾向である。

7つの建築の当初の建設年をみると、1910年代のものが1件、1930年代後半のものが2件、そして1960年代のものが2件、1990年前後のものが2件と、今回は、当初の建設年代が広い範囲にばらつくものとなった。

最も古いものは百年以上経っており、地域のシンボル的な建築であった洋風建築を、その機能をさらに地域のために役立たせようというリノベーションである。1930年代後期のものは、一つは木造の住宅であるが、当時として意欲的な構造が採用されたものを、その技術的価値を今後も継承してゆくためのリノベーションである。BELCA賞のベストリフォーム部門の表彰建築としては、新しいジャンルのものと言えるのではないだろうか。1930年代の今一つは、対照的な建築であり、1990年代に大規模なリフォームが行われ、第7回BELCA賞を受賞したものを、今一度大きな変更を加え、今後も新しい使い方を継続するためのリノベーションがなされたものである。これも、BELCA賞の対象としては新しい動きの例であろう。1960年代の2件は、1991年にBELCA賞が発足した際に、主たるターゲットとしたジャンルのオフィスビルと公共建築であり、主用途としては変更されていないが、見事に生き返らせたリフォームである。これらに加えて、当初の建設年代が1990年前後という、BELCA賞の対象としては若い建築が2件選ばれている。それぞれ、明確なターゲットを設定したリノベーションが高く評価された結果である。

「りそなコエドテラス」は、1918年に銀行の本店本館として建設された建築の、地域の状況に合わせた利活用のためのリノベーションである。今回の表彰建築物としては最も古い建築である。地域活性化の拠点となるような機能を加え、駐車場などを周辺に開放された広場にするなど、素晴らしい保存活用計画となっている。過去にも増改築が数回行われていたが、既存不適格の適法化がなされている。

「第一生命日比谷ファースト」は、1938年に第一生命館として建設された歴史的建造物を母体とし、1995年に高層棟を増築する形で大規模なリフォームが行われていた。このたび、所有形態の変更に合わせ、エントランスやコア位置を移動するなど、大幅なリノベーションが行われている。高層オフィスビルの共用部分などについて、動線計画の根本的な改造などがなされており、今後の参考になる事例である。

「旧本多邸」は、久米設計の創始者である久米権九郎によって設計され、1939年に建設された住宅である。当初の先駆的な建築技術の保存に加えて、熱環境の改善を目指したリノベーション技術の導入などを合わせて行っている。登録有形文化財として保存活用することになった住宅を通じて、周辺の住民との関係を構築しようとする試みも高く評価できるであろう。

「WORK VILLA MITOSHIRO」は、1966年に都心の神田地区に建設されたオフィスビルを、現代の要求に合わせて大規模に改修したリノベーションの好例である。オフィスビルの入居者のためのラウンジとレストランを地下に設けることなどが新しい傾向であろう。低層部の部分的な床スラブの撤去など、大胆な空間構成の再構築や、都心にありながら街に開かれた外周部の扱いなどが高く評価された。

「中野市市民会館ソソラホール」は、1969年に建設された市民会館のリノベーションである。音楽を大切にしている都市として、大ホールの音響性能向上・機能改善が行われている。それとともに、会議室棟を多目的ホールに改修し、大ホールとの間に構造的にも特徴のある、市民創造回廊と名付けられたロビー空間を挿入している。そのことが、周辺と施設との繋がりを改善するなど、効果的なリノベーションとなっている。

「大阪避雷針工業神戸営業所」は、BELCA賞としては、比較的近年の1989年に建設された、社宅と倉庫を含む事務所建築のリノベーションである。営業所の従業員の減少に合わせ、最上階の住宅部分を減築し、さらに二階の床スラブを一部撤去するなど、大胆な断面構成の変更が、豊かな空間を生み出している。大きな庇を付加するなど、様々な手法を駆使して、環境面の性能向上も図った好例である。

「大成建設関西支店ビルグリーンリニューアル」も、1992年に建設されたオフィスビルを、これからの時代に対応すべく、様々な手法で省エネルギー化を図り、事務所ビルのZEB化を目指したロールモデルとしてのリノベーションである。ペリメータを減築することによる半屋外テラスを創り出すなど、この30年間の建築をとりまく状況の変化を感じさせる改修事例である。

以上のように、ベストリフォーム部門の表彰対象は、今回も、建設年代の古い歴史的建造物の改修工事と、戦後のコンクリート系の建物とに、二分されることとなった。 後者には、あまり知られていなかった建築の意欲的な改修事例もあり、バラエティーに富んだものとなった。

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