22回BELCA賞ロングライフ部門表彰建物

旧唐津銀行本店

所在地 佐賀県唐津市本町1513番地15
竣工年 1912年(明治45年)
改修年 2010年(平成22年)
建物用途 催場・展示施設
建物所有者 唐津市
設計者 辰野金吾(監修)、清水建設梶i元設計)、
公益財団法人文化財建造物保存技術協会(改修設計)、
且O島設計事務所(改修設計)、兜ス野設備設計事務所(改修設計)
施工者 清水建設梶i元施工・改修施工)、唐津土建工業梶i改修施工)、
米村電設工事梶i改修施工)、大西工業梶i改修施工)
維持管理者 唐津市

唐津で創設された銀行の、明治45年竣工の本店が市に寄贈され、資料館として観光や地域の活性化のために再生、活用されている築100年の建築である。ベストリフォーム部門にも該当すると思われるが、施設名を「唐津市資料館」とせず、「旧唐津銀行」と旧建物名を継承していることから、今後も市のシンボルとして長く活用(ロングライフ)していこうとする市の意気込みが感じられる。当建物は、辰野金吾の愛弟子・田中実(清水組)により設計され「辰野式」の外観意匠を全面的に採用した煉瓦造地下一階、地上2階の建物である。地階は書庫・金庫室、1階は営業室、機個室、応接室等を備えた中枢部、2階は待合ロビーからの吹き抜け空間と総会室、貴賓応接室等がある。内部壁も腰羽目板張り上部クロス貼りもしくは漆喰塗りの仕上げを行い、シャンデリア、暖炉等も備える等、随所にデザインを凝らした一級の銀行建築である。平成9年に市に移管されて以来、資料館として活用保存のために様々な改修の試みがなされ、現在は、それぞれの空間を上手く活かし資料館として利用されている。今回は保存委員会を中心に大規模な改修が行われ応募に至ったが、それ以前に行われた耐震診断・補強という基本的不可欠な改修も重要であり、ロングライフ部門は、維持保全の過程において主要な役割を担った関係者を顕彰するべきであるとの選考基準より、受賞対象者を選定させて頂いた。
 耐震補強については現状図面を作成することから始めたとのことであるが、これを機に後世に残る記録保全をお願いしたい。当時の残された写真等を基に丁寧な改修施工が行われている。特に屋根は小屋組みから全面的な工事がなされ、防水下地処理をした上で当初の天然スレート葺きに戻され、辰野式を復元した外壁の改修と共に創建時の形を復元している。1階のカウンター格子は、当初の金属製が戦争時に供出され、木製に変えられた経緯があるが、往時の姿が良く保存され、現在では貴重なものとなって見応えのあるものである。資料館としての活用の他、地階はドライエリアからの光を有効に取り入れたレストランとして利用され、多目的ホールも市民活動の拠点となっており、市のシンボルとして地域振興に大きく貢献している。設備面においては、将来の「重要文化財指定」を意識して創建時のAuthenticityを優先しているために、環境面において今日的なものとするには難しい面があったと想像される。しかしながら、例えば使われなくなった暖炉の排気口を、冷暖房施設等に利用する等の、本来のデザインを壊さずに、新しい時代に即した試みがなされても良かったのではないかと思われる。

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