21回BELCA賞ロングライフ部門表彰建物

阪神甲子園球場

所在地 兵庫県西宮市甲子園町1−82
竣工年 1924年(大正13年)
建物用途

観覧場(野球場)

建物所有者

阪神電気鉄道

設計者

椛蝸ム組

施工者

椛蝸ム組

維持管理者

阪神電気鉄道

 高校野球の開催を主目的として大正13年に建設された、日本で初めての本格的な野球場のリニューアル工事である。既存の構造体の大半を耐震補強し、又、銀傘を高く架け替え、客席、設備も全面入れ替える等、ほとんど全面改修されており、ベストリフォームと言っても差し支えないほどであるが、これまでと変わらぬ甲子園球場のイメージを残し、歴史と伝統を継承したいという、建築主の熱い想いを尊重し、ロングライフ部門としての授賞となった。甲子園球場と言えば、蔦で覆われた外観が印象的であったが、その下の旧外壁は打ち放しコンクリートであった。現地を視察した時の印象では、新たに構築された外壁煉瓦タイルが、旧来からのものが補修され残されたような錯覚に陥った。このように改修に当たっては、観客が抱く甲子園のイメージを大切にすることを第一に優先し、随所にそのコンセプトが展開されている。
 外観は、連続アーチ、ポツ窓といった旧来の形状を継承しつつ、構造体から切り離された中空煉瓦積み工法で施工されている。今後、蔦を復活させていくとのことであるが、その際に、構造体への悪影響を無くし、メンテナンスのし易さを良く考慮した工法である。銀傘は、構造躯体の耐震補強に併せて全面的な架け替えが行われた。高さを一段と高くし、視線の妨げとなる柱を極力後方へ移動させ、視認性を一段と向上させている。又、その高さを活用してロイヤルスィートを新たに設置しアメニティを高めている。
 省エネ対策としては、空調熱源のリバースリターン方式、ポンプ等の台数制御やインバータ制御などを採用している。環境負荷低減対策として、新たに構築した銀傘屋根上を利用して太陽光発電設備(200kW)を新設し、雨水や井戸水の利用なども新たに考慮されている。特に、施工面においては、シーズンオフにしか工事が出来ないという制約の中で、足掛け4年に亘った長期工事であったが、避難安全検証法や、計画認定等の法制度を上手く活用し、各工事段階において、4万7千人もの大観衆の安全性を検証しながら施工を周到に進めていったことが評価された。
 又、新たな施設として、野球文化の振興のために「甲子園歴史館」と「新野球塔」を設ける等、野球に対する建築主の情熱が感じられた。バリアフリー化やボールの見えやすいカクテル光線を用いる等の試みも図られ、新しい時代にマッチした球場をつくりだそうとする関係者の意欲が充分に汲み取れた。今後、かつての蔦が覆い茂り、以前と同じ姿が見られるようになることを期待したい。
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