20回BELCA賞ロングライフ部門表彰物件

明治学院 礼拝堂

所在地 東京都港区白金台1−2−37 明治学院構内
竣工年
(改修年)
1916年(大正5年)、1924年(大正13年)、
1931年(昭和6年)、1966年(昭和41年)、
2006〜2008年(平成18〜20年)
建物用途

礼拝堂

建物所有者

学校法人 明治学院

設計者

活齬ア社ヴォーリズ建築事務所
公益財団法人 文化財建造物保存技術協会(改修)

施工者

田林 虎之助
樺|中工務店(改修)

維持管理者

学校法人 明治学院

1863年宣教師ヘボンが横浜に開設したヘボン塾を前身とし、1887年白金キャンパスで開校した明治学院の歴史を刻む文化財建築群を構成する施設である。
  設計者であるウィリアム・メレル・ヴォーリスはキャンパスの配置計画にも関わっており、彼の特徴でもある広場を囲む施設配置に沿って、礼拝堂(港区有形文化財)・記念館(港区有形文化財)・インブリー館(国の重要文化財)が当時の配置そのままに歴史的に貴重な景観を形成している。
  1916年「ミラー記念礼拝堂」からの再建の後、関東大震災被災後の補強・増築を中心とした1931年の大改修に続く今回の「保存修理」では、現行法規にも合致する耐震性能を「鋼板補強工法」と外部バットレス更新などで実現すると共に、1931年当時の姿への復元をテーマとしている。
  修理要件として講壇とギャラリーの復元が掲げられ、図面や写真など歴史資料の綿密な調査と現地での痕跡調査等々に基づく極めて丁寧な施工が、厳格な品質管理の下に実施されている。構造補強や仕上げ作業にも、試験体による確認や施工実験による精度確保など事業主・設計者・施工者の高い意識の共有が生む、確実な施工は高く評価したい。
  1916年の再建に倣う「古材転用」を前提に、解体材などを活用した各所造作や家具修理などの意匠復元と共に、今回の「保存修理」を保存・修理技能者の実践・育成の場として技術の伝承を指向して実施し、事前調査から始まる事業の全てを極めて詳細な記録として残すなど、今後の恒久的な保存に向けた大きな成果を得ている。
  シザース・トラスが特徴的な内部空間は、復元された講壇の意匠と同調して、プロテスタント教会としての重厚な佇まいを持つ祈りの場となり、日々の礼拝・各種催事において多くの人々に活用されている。
  礼拝堂の屋根は天然スレートから銅版葺きに変更され、ドーマー窓やバットレスも追加されているが、外観を際立たせる換気機能を持った尖塔を伴い、機能としても建築としても美しさを失っていない。
  もともと当礼拝堂は、創建当時より現在に至るまで冷房設備はなく、蒸気暖房のみが設置され建物は自然換気方式となっている。今回の改修では、蒸気暖房を温水熱交換器による温水コンベクター方式に変えているが、冬期における蒸気暖房立ち上がり時の問題点を考慮すれば、まずは懸命な選択と言えよう。しかしながら、都心の街中におけるヒートアイアランド化が進む現在において、夏期の自然換気は大変に厳しい室内環境となるため、今後も建物を長期にわたり使用し維持保全する上では、室内環境の面においての検討も必要と考える。
  いずれにしても、18世紀の伝統的工法で作成されて今後300年は使用可能なパイプオルガンと当礼拝堂の100年、120年を見越した修繕計画に、所有者である明治学院の文化財保存・活用の強い意思が示されており、地域の住民にも愛されるこの礼拝堂が、変わることの無い歴史的・文化的景観を維持することで、ロングライフ部門に相応しい建築であり続けることを確信するものである。

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