17回BELCA賞ロングライフ部門表彰物件

武庫川女子大学 甲子園会館

所在地:兵庫県西宮市戸崎町1-13

竣工年:1930
用 途:教育施設(大学、その他)
建物所有者:学校法人 武庫川学院
設計者:遠藤 新
椛蝸ム組(改修)
施工者:椛蝸ム組
維持管理者:学校法人 武庫川学院

遠藤新の設計になる旧甲子園ホテルの歴史的遺産が、左右両翼の全体構成から装飾的な細部に至るまで、フランク・ロイド・ライトの意匠を思わせるその全貌を完全な姿で残、建築が人と出会い人が建築と出会う幸運の稀有な好例となっている。

1930年(昭和5年)の創建に際し、松林の自然堤防という立地や強固な地盤の選定、屋根スラブの上に止水や断熱の緩衝空間を構成する瓦葺きの置屋根、大谷石より耐久性に優れた日華石の選択、軒先の石材をコンクリートスラブに打ち込む一体化のディテール、スラブ上配管やトレンチによる設備の集約と更新性の配慮など、帝国ホテルから継承した知恵を独自の長寿命の工夫に変えて随所に織り込んだ。阪神・淡路大震災でも殆ど無傷のまま残ったことは、当時の設計・施工技術のレベルの高さを物語っている。

旧甲子園ホテルは、戦時中は海軍病院、戦後はGHQ,そして大蔵省へと管理者が転々とする数奇な歴史を辿った末、1965年(昭和40年)に武庫川学院がこれを取得し、建築学科の教室、スタジオ、図書室などへと全面的に改修するに至った。大学による周辺敷地の追加取得と広大な庭園の復元、更には新校舎の建設も竹林を間に挟んで最大限の離隔を取るなど、豊かな自然環境と景観を保全する努力、そして適切な維持管理のもとでの有効活用と地域貢献活動は、ひとえにこの施設に対する並々ならぬ愛着の故に他ならない。

 耐震改修においては、元の意匠を損なわない小型ブロックを用いた耐震壁増設や、炭素繊維による煙突の補強、庇鼻先石材のピン打ちなど、最新の補強技術が駆使されている。

 設備関連は節目ごとに改修・更新されてきたが、いずれも当初の設計意図を受け継ぎ、その風格を持続している。電気設備では、変電設備や幹線の増強及び情報化に対応するシステムの構築、照明器具に関しては居室改修の用途に合わせた更新を行い、また従来からあるシャンデリア・ブラケット類は特注による製作で意匠・品格を継承している。空調設備では、個別空調方式により快適性の向上及び省エネルギーに配慮し、給排水・防災・搬送の各設備も当初の意匠・仕様を考慮し、関連法規や時代の要求に合うよう改修されてきた。東西のウィングにはそれぞれ設備配管用シャフトがあり、またそれを接続する設備トレンチが横断し建物全体に設備ルートが循環するように計画されていて、創建当時の意図を生かした設備の改修が確実に行われるような構造となっている。

 打出の小槌をモチーフとしたオーナメント、アールデコ文様の石飾り、西ホールの光天井障子など、ライトの意匠を継承するデザインと生産性の高度な融合がそのまま保存され、建築学科の生きた教材として、オープンカレッジやイベントの拠り所として、更には地域文化に欠くことのできない社会資産として人々に敬愛される所となっている。

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