31回BELCA賞ロングライフ部門表彰建物



明治記念館本館

所  在  地

東京都港区元赤坂2-2-23

竣  工  年

1918年

建 物 用 途

結婚式場

建物所有者

宗教法人明治神宮

設  計  者

木子 清敬(新築)、清水建設梶i改修)

施  工  者

清水組(移築・現 清水建設梶j、清水建設梶i改修)

維持管理者

明治記念館

この建物は明治14年に赤坂仮皇居御会食所として木子清敬の設計により建築され、明治天皇・昭憲皇太后が諸外国賓客のもてなしに利用されたものである。その後、明治40年に伊藤博文邸に下賜移築されたが、大正7年明治神宮外苑の造営に際して伊藤家の寄贈で現在地へ再移築し、憲法記念館として皇室行事等に使用され、戦後には昭和22年より明治神宮の総合結婚式場・各種式典会場である明治記念館となり、周りに増築改築を繰り返し今日の形となっている。

創建時の図面や経過を示す資料、移築時の改修記録とその後の改修記録が確認されている。構造材については意匠、材料ともおおむね創建時のものが残されており、造作材についても後補材により材料・工法が置き換わっている箇所もあるが、形態・意匠は踏襲され整備されてきたとのことである。大正7年の移築では、車寄せの屋根の形態を変えずに柿板葺きから銅板葺きに葺替え、避雷針が追加されている。大正12年の関東大震災被災後は、暖炉の煙突を失ったが室内の暖炉形態は現在まで保存されている。昭和22年の総合結婚式場としての改修・増築では後日原状回復ができる「可逆性」が工事の条件となっており、下賜されて以降一貫して当初の遺構を意識して残し移築改修工事が行われてきている。

本館は 平成14年と2528 年に耐震補強が実施されている。見える部分は変わらないように、小屋裏、床下に取り外し可能な鉄骨、金物による補強および油圧ダンパーを設置、壁については、木摺下地+漆喰壁であったものを構造用合板張りの耐震壁に置き換えている。車寄せでは、柱・梁を鉄骨に置き換え表面は木で覆い古色塗装を施し、見た目にはわからないように施工されている。平成29〜令和元年には内外仕上げの改修工事を実施し、現代宴会場としての機能と歴史的意匠の両立を図っている。また設備の機能を強化しながら、度重なる設備改修で当初の意匠を損なった部分を、照明・空調・音響・防災の各機器をなるべく天井埋込み型を採用し出来る限り往時の姿に戻し、照明器具の配置を工夫することで天井の意匠を再現している。床は寄木張りの市松1グリッド当たりの板割り寸法を創建当時に戻すだけでなく、宴会場としての多用途な要求に応えられるよう床耐荷重の向上補強を実施。縁の手すりは自立ガラス手すりとしている。各所バリアフリー対応も実施している。細部では外部引戸は既存意匠を踏襲しつつ、召合せやレール部分の形状を相じゃくり形状にし、気密性の高い納まりに更新し、 断熱性・遮音性を向上させるために既存の腰板を再利用しながら複層ガラスを採用している。スイッチ類の隠しとして周囲の襖と一続きになるような戸襖を新設するなど、細部に目の行き届いた改修を行っている。

創建から140年もの間、移築、用途変更を繰り返しても、その都度この建物の由緒が守られ、近年の改修では、学識経験者からなる修復委員会の指導の下で実施されており、この建物の歴史と価値が建築主と設計施工者の強い意志のもとに守られている。保存と活用の両立と改修の「可逆性」を重要視していること、改修に当たり取り外した当初材を明治神宮に保管していることなど文化財保護の好事例といえる。


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