31回BELCA賞ロングライフ部門表彰建物



東京大学(本郷)総合図書館

所  在  地

東京都文京区本郷七丁目3-1 東京大学構内

竣  工  年

1928年

建 物 用 途

大学(図書館)

建物所有者

国立大学法人 東京大学

設  計  者

内田祥三(新築)、
東京大学キャンパス計画室
(野城智也・川添善行)・同施設部(改修)、
香山建築研究所(改修)

施  工  者

清水建設梶i改修)、株ェ重洲電業社(改修)、
藤井電機梶i改修)、工藤電機工業梶i改修)、
滑`本商会(改修)、正和工業梶i改修)

維持管理者

国立大学法人 東京大学附属図書館

東京大学(本郷)総合図書館は、関東大震災からの本郷キャンパスの復興過程で内田祥三が設計した建築群の中で、ジョン・ロックフェラー・ジュニアの寄付を受け昭和3(1928)年に創建されたものである。

令和3(2021)年の本館改修と別館新築の二本柱からなる新図書館計画の一連の工事の完了を以ての今回の応募であり、所蔵する書籍の増大に対応するため、北側噴水広場に地下46mにも至る300万冊収蔵可能の別館収蔵庫をつくってまで、正門から安田講堂に至るキャンパスの中心軸に直交する景観軸である銀杏街路の南の突き当りにあたる図書館前の噴水広場の景観と総合図書館の建築そのものの保存を図りつつ機能改善を実現したことは、今回の受賞対象の昭和3年に創建されたオリジナル部分の保全改修の成果につながる一連の行為として評価すべきことである。

本館の改修工事の内容は、構造部材や非構造部材の耐震化、特定天井の安全措置、創建時意匠の復元のための内装改修、ホールや記念室の照明器具の復元、防火性能の改善、外部建具の機能改善及び創建時意匠の中桟割付採用復元、外壁の健全性の確保、電気や機械設備の更新、バリアフリー対応と多岐にわたり、2014年に着手し2021年の竣工まで464か月を要し、設計期間を含め10年の歳月を掛け入念に計画し施工されている。別館の活用により本の収蔵量を適切に管理することで本館建物への負荷を減らし、過去の改修工事で増床改修された部分を撤去し創建意匠の吹抜に戻している。創建時意匠の継承復元にあたっては創建材の保全を優先しつつも現在の材料や技術による置換、復元といった手法も採用している。天井については、3階ホールでは全撤去の上、ぶどう棚直吊工法を採用しGRGや石膏ボード吹付塗装で同一意匠に復元。一般閲覧室の梁に囲まれた一部分のみ創建材の天井をそのまま保存しているが天井内部に鉄骨部材を設けて耐震化を行っている。各所に設置されている石膏装飾部材は取外しの上、ガラス繊維補強を裏面側に施し復旧しており、ホールに面するアーチ型に構築された躯体面に、直接取り付けられていた化粧部材は表層からビスで補強固定を行い、周囲の仕上げ漆喰にエポキシ樹脂注入工法で剥落防止を施すなど、適合した修復工法を適宜採用している。

また、1階記念室の床寄木フローリングの補修は木目色目が変わらないよう3階閲覧室で使われていた同じ樹種の棚材を転用するというきめ細かい作業を行い、電気設備では、創建時の照明器具の写真から3Dプリントで確認し復元するなど、創建時を尊重する施主の思いが感じられる。空調設備は、エアハンドリングユニット、ファンコイルユニット、ヒートポンプパッケージ方式、 閲覧室では床輻射冷暖房システムを採用している。歴史を感じる部屋等では床置ファンコイルユニットに意匠上のカバーを設置するなど意匠的な調和を重視している。意匠と居住性を空間により使い分けた設備で 「歴史性と機能性が両立されたもの」を実現している。外壁タイルの剥落防止処置は、浮きが躯体と張り付けモルタルの界面の場合はアンカーピンニング工法とし、張り付けモルタルとタイルとの界面である場合はステンレス製特殊アンカー固定工法を採用し、全て目地部分でアンカーするという合理的な工法が採用されている。

『東京大学キャンパス計画大綱』(2014年)には「東京大学のアイデンティティの象徴および基盤として、本郷地区キャンパスの歴史的空間構造及び景観(建築群および外部空間)の価値を将来にわたって継承することをキャンパス計画の第一義的な目標とする。」とある。『歴史的建造物の増改築手法に関するレビュー』(2015年)では歴史的建造物の増改築において基本となる理念を挙げており、その中でも『増改築ないし改修のタイムスパンを意識すべきである。今後10 年使用するための改修に歴史性を犠牲にすべきではない。』『歴史的建造物に過度な機能性を求めるべきではない。建造物利用者側もキャンパスの歴史性を尊重し、歩み寄ることをしなければ、当キャンパスの歴史性は継承し得ない。』としているという。それらの卓見が今回の保全改修の精神的背景にあることが確認できた。


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