29回BELCA賞ロングライフ部門表彰建物



ヒルサイドテラス1期〜5期

所在地

東京都渋谷区猿楽町29他

竣工年

1969年(1期:A・B棟)
1973年(2期:C棟)
1977年(3期:D・E棟)
1985年(4期:アネックスA・B棟)
1987年(5期:ヒルサイドプラザ)

建物用途

共同住宅・店舗・ホール

建物所有者

朝倉不動産

設計者

伎総合計画事務所(1・2・3・5期)、潟Xタジオ建築計画(4期)

施工者

樺|中工務店

維持管理者

朝倉不動産
 1969年の10月に代官山ヒルサイドテラス第1期(A棟・B棟)が竣工して、50年が経過した。1期から6期まで四半世紀をかけて建設され、武蔵野の面影が残る閑静な周辺環境を活かしながら、モダニズムのアーバンデザインによってつくられたヒューマンな街並みは、旧山手通り沿いに全長250mまで及び、これまで多くの人々に親しまれてきた。
 住居・店舗・オフィスが共存する中で、自然や地形など周辺景観と調和した、ヒューマンスケールな開かれたオープンスペースなどの空間は、オーナーと建築家と施工者の三位一体の緊密な連携によって、設計・施工・維持管理が適切に実施されてきた結果である。
 オーナーである朝倉不動産株式会社を設立した朝倉家は、この地で江戸時代から続く大地主であったが、土地を活用するに当たって性急な開発を望まず、むしろ長期にわたり快適な場所として保たれるよう環境の変化に徐々に適合させていくことを望んでいた。建築家はその意を汲んで、開発のためのマスタープランを数期に分けて計画し、時間をかけて、それぞれの時代状況に合わせて開発が進められた。
 例えば、旧山手通りの交通量が増加し、騒音や排気ガスから建物を守る必要が生じたため、1期の道沿いのペデストリアンデッキは2期では中庭プラザになり、建物2・3階の道路側は壁とし、外壁も汚れの付きにくい吹付タイルに変えている。更なる都市環境の変化に対し、3期と6期では中庭型の配置とし、外壁も3期は磁器質タイルであったが、6期ではアルミパネルに変えている。(6期は今回選考対象外)
 構造面では、新耐震前に計画された1〜3期は耐震診断調査実施後、A・B棟については変形性能の乏しいせん断柱に炭素繊維シートを巻き、一部RC耐震壁を新設している。また、C・D棟についてはテナント状況に応じて耐震補強が計画されている。
 設備面では、1期においては当時最先端であったセントラル方式エアロマスターを個別パッケージへ、排水配管はテナントでの長期休止が難しいことからA棟では内部ライニング工法を採用し、B棟は腐食しにくい耐衝撃性塩化ビニル配管へそれぞれ更新している。電気設備においても、B棟にキュービクルを増設しテナントニーズに即した電力増強工事を実施している。3期のD・E棟においては、空調設備は逐次パッケージ空調機を更新し、衛生配管は劣化診断を行った上で、A棟と同様に内部ライニング工法を採用・更新している。電気設備も動力負荷やOA負荷などの電力需要増加に伴い、省エネルギーを考慮したトップランナー方式の変圧器を使用した受変電設備への更新とともに幹線の増強を行っている。
 ヒルサイドテラスでは、「事業展開において空間を消費するのではなく活かすため」というオーナーの長期的ヴィジョンに基づき、商業的な展開だけでなく、文化的な空間や活動によって「文化を発信する場」が広く展開されてきた。その精神はヒルサイドテラスに続く他の商業空間にも引き継がれて、その心地よい街並みは更に発展を遂げ、賑わいを増している。

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