第27回BELCA賞ロングライフ部門表彰建物 |
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ホテルニューグランド本館 |
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所在地 |
神奈川県横浜市中区山下町10番地 |
竣工年 |
1927年(昭和2年) |
建物用途 |
ホテル |
建物所有者 |
横浜市 、 潟zテル、ニューグランド |
設計者 |
渡邊 仁(新築時)、清水建設梶i改修時) |
施工者 |
合資会社清水組[現 清水建設馨(新築)、清水建設梶i改修) |
維持管理者 |
潟zテル、ニューグランド |
ホテルニューグランドは、1923年の関東大震災後の1927年(昭和2年)に外国人向けホテルとして竣工した。1994年時点の改修に対して第5回BELCA賞ベストリフォーム部門を受賞しているが、洋風建築の中に東洋的な装飾や手法をとり入れた2階ロビーと宴会場の内装が大きな特徴であるこの建物の、今回はその内装の保存改修が対象のロングライフ部門での受賞である。「横浜市歴史を生かしたまちづくり要綱」にもとづく保全活用計画では、正面外観と中央階段、2階ロビー・宴会場、屋上看板が歴史的価値を形成しているものとして、建築を活用しながら保全する対象範囲となっている。創建当初、横浜市が建設を主導し民間にホテル運営を委ねた経緯から、現在でも本館建物は市と株式会社ホテル、ニューグランドの共有資産となっており、保全継承活動は横浜市との協議にもとづいて実施されるという。 2014年と2016年の耐震補強工事では竣工時の不足図面を、4年間にわたる建物全体の調査により現況図を復元し、保存部分の外観を変えないよう耐震補強工事を実施している。追加的な耐震補強工事により、緊急安全確認大規模建築物等の認定も受け建物の安全性を向上させている。 今回の保存改修のハイライトは本館2階ロビーとレイボーボールルームの左官仕上げ大規模天井の耐震対策改修である。二部屋ともラスモル下地に漆喰仕上と石膏レリーフで構成された印象的な造形を持つ装飾吊り天井である。レインボーボールルームの天井改修では、コアサンプリングとX線透過撮影による天井材の調査と3Dスキャンによる天井形状の数値化を事前に行っている。面白いのは天井裏の吊り材の状況を狭い曲面天井の天井裏で調査するために、リモコン戦車模型の上部を取り外し、そこにスキャナーと全方位カメラ、照明を取り付け、天井裏を走行させて調査していることである。それらにより天井の形状と下地の3次元データ化を行ったうえで入念に耐震計画を立て、実大振動実験で確認したうえで施工を実施をしている。また、天井面の石膏レリーフは既存レリーフを活かし取りし、ステンレス棒による継ぎ補強とガラス繊維の裏打ちなどで補修され再取り付けされている。これらの作業は難工事であり、周到な調査と準備と卓越した職人技とともに、点群測量や遠隔計測技術、BIMの活用など新しい施工技術との両立により成立している。 ホテルニューグランドは戦後、進駐軍の接収期間に手が入れられ創建当時の姿とは異なる部分もある、レインボーボールルームも創建当時はあったであろうシャンデリアが、映画上映を行うために取り外され、その時にアール形状の梁型にそったレインボー照明が取り付けられたようだ。保存改修を行う場合、建物のどの時点に復元するかが問題になるが、ここでは市民の記憶に残っている今回の改修直前の姿をあえて将来にむけて残す改修を行ったという。 建物の歴史的価値を少しでも残して保存しようという姿勢が強く感じられた。関係者が粘り強く尽力し、歴史的価値を残すことを実践し、所有者がこれを守り残していこうとする思いが伝わってくる建物である。 |
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