25回BELCA賞ロングライフ部門表彰建物

三井住友銀行 大阪本店ビル

所在地

大阪市中央区北浜4丁目6番5号

竣工年

1930年(昭和5年)

建物用途

銀行(本店)

建物所有者

且O井住友銀行

設計者

住友合資会社臨時建築部(新築)、鞄建設計(新築・改修)

施工者

椛蝸ム組(新築・改修)、轄ヲr組(改修)、粥ヌ沼組(改修)、住友電設梶i改修)、
浅海電気梶i改修)、ダイダン梶i改修)、且O晃空調(改修)、須賀工業梶i改修)

維持管理者

東西建築サービス
 大阪の中之島の景観地区においても特別な存在感を持つ本建物は、昭和5年に竣工し間もなく90年を迎える。昭和30年代に6階を増築しているが、そのほかは創建当時のまま使用されている。所有者である銀行は、建て替えを含め様々なケーススタディーの結果、今後も数十年は大阪本店ビルとして継続使用することとし、20年間の長期保存計画を策定して、保存活用を前提に抜本的な改修を行った。
 現在の銀行本店として求められるニーズに合わせるため、内装改修は新たなワークスタイルを視野にユニバーサルレイアウトを採用し、耐震ブレースによる耐震性能向上や設備スペースの工夫により室内の専有スペースを犠牲にすることなく有効性を向上させている。また社会的に求められる環境性能要求に対して、外装の鋼製サッシュを用いた窓については意匠を変えずに高断熱高気密のアルミ製サッシュへ交換するなど積極的に取り組んでいる。
 設備については、大阪本店ビルとして継続し続けることを前提とし、省エネルギー化・ロングライフ化を考慮した更新がなされている。維持管理が容易に行えるよう、設備機器・ダクト・配管類を4か所の中庭に構築した架台の上へ設置することでメカニカルボイドとし、外部からのメンテナンス・設備改修・機器更新ができる計画となっている。環境配慮として空調負荷削減・インバーター化・小型熱源台数分割による低負荷時高効率化・照明制御とLED化を組み入れてエネルギー使用量の30%削減を実現している。BCP対応としても緊急時に即応できる対策室を5階に設けて、東京本店や各支店との連絡体制を確立すべきときに設備の運転について72時間(3日間)使用できるフルバックアップが構築されている。
 施工にあたっては、使用しながらの段階的工事計画という条件の下、既存インフラ調査や埋設物非破壊検査などによる十分な準備の上、工事に伴う事故による業務の支障への配慮を行うとともに、過去に幾度も繰り返されてきた改修による残存不要物の撤去や既存躯体欠損部の補修、復旧など徹底した改修が実施されている。
 維持管理については専門のスタッフが担当し、24時間体制で日常の点検や補修などが継続されている。専門的な技術を要する分野の担当業者を常駐させるなど、信頼性が求められる銀行業務を支えている。また長期保全計画に基づき年度ごとにスケジュールを立てながら的確に維持管理を遂行している。
 今回の改修により、内部の執務空間は現代のニーズに対応したものとなったが、黄色味を帯びた擬石ブロックを用いた温かみを感じる外装は、当時からの落ち着いたたたずまいを維持し、ライトアップ装置が付加されている。内部では、大理石により作られた3か所の玄関を結ぶホールが、来館者に歴史の継承を印象付ける。シンボルともいえる3層吹抜けの営業室は、その歴史的に価値ある意匠を竣工時のまま保存され継続使用されている。
 経済的観点からは確実に建て替えられるべき条件が揃っているものと考えられるが、遺すことへの決断を引出す建築の存在力が優ったのではないか。遺す部分と近代的に進化させる部分の周到な仕分けが計画され、価値あるロングライフ化が実現された。

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