24回BELCA賞ロングライフ部門表彰建物

大多喜町役場

所在地

千葉県夷隅郡大多喜町大多喜93

竣工年

1959年(昭和34年)

改修年

2012年(平成24年)

建物用途

役場

建物所有者

大多喜町

設計者

今井兼次(新築時)、叶逞t学建築計画事務所

施工者

大成建設

維持管理者

大多喜町

1959年に竣工した庁舎は耐震性、耐久性、スペース不足などの問題により、2005年に開始された庁舎建設検討委員会や耐震診断等の結果を踏まえ一時は解体という状況にも瀕していたが、「新築では故郷のシンボルを愛してやまない町民の理解が得られない」という判断のもと、増築を含めた保存改修という英断に至った。
 改修プロセスは増築棟を完成させてから既存棟改修に着手するローリング手法を用い、合理的に行われている。今井兼次のデザインと対話するかのように、補修箇所を最小限にとどめ、当時のままに復元できない仕上げは更新ではなく「金継ぎ」のように新しい材料を必要部分に嵌め込み、また役割を終えた装飾金物等は異なる場所で再活用するなど、改修履歴を蓄積し空間と時間を紡いでいく表現となっている。結果の受け止め方は難しく思われるが、安易に刷新しない手法を町と合意形成出来たことで歴史を繋げている。
 設備については、断熱もなく配管スペースの余地もない状況で、可能な限り内断熱を行いながら、既存床の段差を利用した床下空調を行うなど、既存建物と現代設備の融合した計画となっている。熱源はガスヒートポンプエアコンとし、熱源機の個別化により業務時間等を考慮した効率の良い熱源機ゾーニングを構築している。照明器具は既存のものを再利用しつつ、必要な照度確保のためLEDを積極的に採用して省電力、省メンテナンスを実現している。また、増築棟においても空調や照明の省エネルギー化が徹底されている。
 施工にあたっては保存再利用可能な部分の徹底した調査が実施され、解体時にも得られる情報をもとに、保存側に重心を置いた改修方法の追求が継続的に行われている。公共建築事業としては困難な手法であるが、大多喜町と設計者、施工者が一丸となる推進体制により乗り切っている。著しく劣化が進行する外壁部のコンクリートは該当部の撤去とともに仕上げ面の調整後劣化速度の遅延材コーティングを行っており、健全な経年の表情をイメージさせる。数多くの装飾要素を持つ内装では、新旧の取合いも多く神経を使う改修工事の要求に応えている。
 日常維持管理業務については企画財政課が担当し、大規模なリニューアルについては、5ヵ年計画への計上や財政担当との協議を行い役場全体の状況を踏まえた改修時期、コストを考慮した予算計上を検討している。
 今回の改修により、庁舎の主要機能は増築棟へと移行させ、既存棟には多目的ホールを付加することで今まで以上に町民にとって身近な存在として機能変化を遂げている。当時の姿を残しながら100年継続活用することを目標とし、耐震性・耐久性はもとより増築棟とともに空間の冗長性や機能性の確立により、多様な役割に対応しながら街の象徴であり続けることができる庁舎としての総合的長寿命化を実現している。今後も大多喜町のシンボルとして、また数少ない今井兼次作品の特徴が色濃く残された建築として、大多喜町民によりその役割を継続し遺されていく。

第24回BELCA賞に戻る

BELCA賞トップに戻る