第31回BELCA賞ベストリフォーム部門表彰建物

I-PEXキャンパス本館

所  在  地

福岡県小郡市小郡2409-1

竣     工

1990年

改  修  年

2020年

改修前用途

大学
改修後用途 事務所

建物所有者

I-PEX

改修設計者

鹿島建設梶Astudio CIRCLE

改修施工者

鹿島建設

1990年に福岡女学院大学小郡キャンパスとして開学したが約10年後、都心部のキャンパスへ統合され、その後2年間は別法人の大学施設として利用された後は、10年近く空き家の状態が続いていた大学の建物キャンパス全体を、2018年に第一精工株式会社(現:I-PEX株式会社)が取得し、グループの中核拠点へと作り変えているというプロジェクトである。

将来計画を見込んで、まずは敷地内の本館へのアプローチ動線を改変し駐車場とランドスケープを整え、本館は設計・開発部門が入居するオフィスへとコンバージョンしている。建築主からは「歴史ある教育施設の伝承」と「ABWに対応した最先端オフィスへの改修」が求められたということで、外観は旧大学校舎のデザインを継承し、内部は学校の多様なスペースをうまく活用し、ABWをベースとする活発なコミュニケーションを誘発する新しい働き方に対応した空間へとリニューアルを施しつつも、インテリアの一部を保全し一粒社ヴォーリズ建築事務所設計のスパニッシュ・ミッション様式学校建築の特徴と柔らかな雰囲気を残している。本館建築全体の中で八角形の平面を持つ中心部分は、吹抜空間の1階をエントランスホールと企業展示スペース、2階をカフェテリアとし螺旋階段を新たに設置して1階と2階を一体利用可能なスペースとし、3階は多様な利用を想定したホールに改修して社員のフリーワークスペースと企業発信をするプレスリリースの場としており、オフィスへの改変コンセプトの象徴的な空間として造作されている。この中心部分から腕を伸ばすように平面計画された旧教室部分は、廊下と教室を分けていた間仕切壁をすべて撤去して、元廊下として利用されていたエリアは動線としての機能と部署を超えたコミュニケーションハブとし、元教室部分は執務エリア集中作業スペースとして、元の廊下と教室の境界に残った列柱を両スペースの領域を示すものとして上手く処理している。また、元階段講義室は企業教育のスペースとして活用されている。

換気設備としては既存サッシュをガラリに改造し窓際にDSを設置して給排気口を確保し機械換気対応を行い、排煙設備も同様に既存引違い窓の2/3を縦辷出し窓へ変更して対応している。空調設備において、既存の空冷チラー、空冷ヒートポンプエアコン方式から2管式空冷ヒートポンプエアコン方式へ改修されている。学校の厳かさを残した空間では空調機を意匠的に覆い、執務エリアでは天井下がり範囲を限定しメッシュ天井とした上で天井カセット型とし、ホールでは床吹き出し空調を採用するなど、意匠・機能・快適性を使い分けた設備となっている。また、新たに配置された設備シャフトでは点検スペースが確保され、設備の維持や更新が容易な建物となっている。施主側の要望事項に対し施主側と協議を重ねて設計したことが感じられた。

その他機能面でも対応が行き届いており、エレベーターを平面計画と避難距離上問題のない階段を撤去することで設置し、撤去した階段段床の痕跡を壁面にあえて残している。また、外壁の汚れ防止として窓下の既存のコンクリート水切りの下に金属製の水切りを追加するなど、外壁の汚れ防止にも各所入念に改修されている。

旧グランド部分には「ものづくり棟」という生産棟が建設中であり、残った建物を含めキャンパス全体が将来にわたり企業拠点としてどのように成長していくのか楽しみなプロジェクトである。現地視察時に福岡女学院大学小郡キャンパス当時の先生方や卒業生が改修されたオフィスに招かれ建物が残ったことを喜び合う映像を見たが、使い方は変わっても建築が残されることの意義を再認識させられた。


31回BELCA賞に戻る

BELCA賞トップに戻る