第27回BELCA賞ベストリフォーム部門表彰建物

ロームシアター京都(施設名称:京都会館)

所在地

京都府京都市左京区岡崎最勝寺町13

竣工

1960年(昭和35年)

改修年

2015年(平成27年)

建物用途

[改修前] 集会場
[改修後] 劇場、物販店舗、飲食店

建物所有者

京都市

改修設計者

香山壽夫、香山壽夫建築研究所、椛蝸ム組、鞄。井組、渇ェ野組、
鰍ォんでん、東洋熱工業梶A鞄券ィ建築事務所

改修施工者

椛蝸ム組、鞄。井組、渇ェ野組、鰍ォんでん、東洋熱工業
 ロームシアター京都は、前川國男の設計により東京文化会館竣工の前年である1960年に京都会館として竣工している。竣工後50年余を経て、施設全体の老朽化やホール機能の劣化に対して、2011年6月に「京都会館再整備基本計画」を策定し、既存の建築価値を出来る限り活かし、公共建築としての機能と施設水準の向上のため再整備が実施された。
 整備計画は大きく二つの文脈から成り立つ。施設全体の北半分、旧第一ホール部分は音響の不具合や舞台の広さ高さ不足を解決すべく解体され、総合舞台芸術に対応できる多目的ホールとして「メインホール」として新築された。南側の第二ホールは使いやすい中規模多目的ホール「サウスホール」として舞台機構などの機能を改め再生改修している。また、二条通側の会議棟の1階は事務室からブック&カフェへ、2階会議室はレストランへ改修されている。
 今回の再整備計画の一つの焦点は既存建築の文化的価値に対して、ホールを中心とした機能改善と施設水準の向上を如何に実現するかということである。最大の難関の第一ホールに関しては、同じ建坪の中で2000席を超える客席規模を維持しつつ、舞台を拡大しフライタワーとプロセニアムを持たせるために解体・新築としているが、既存建物の大庇以下の外観を維持するように配慮されている。また、旧第二ホールの中庭側バルコニー部分上下を内部化した裳階状の造形は新築したメインホール側にも施され、新築部分と改修部分を違和感なく繋げている。この中庭側ピロティ部分上下の内部化は既存建物に不足していた公共内部空間を大きく補い、雨天や酷暑厳寒時の施設の利用や回遊性に大きく寄与しているだけでなく、既存建物に新たに加えられた部分であるが実に違和感がない。
 既存建物を特徴づける重要部位である、大庇、欄干手摺、煉瓦タイル壁、本実打放しコンクリートの柱型、軒下天井パネル、プレキャストコンクリート階段などは保存改修・回復に努めている。また、全館、設備はリフォームされており、建物機能、室内環境(空調、照明、ホール音響など)は改修前に比較し改善されている。また環境性能指標CASBEEはSランクとなっており、省エネルギー、環境性に配慮した改修となっている。
 加えて評価されるべきは、前川國男が計画当初意図していた第一ホールホワイエを介した中庭から北側の冷泉通への空間の抜けを、前述の中庭に面した裳階状の内部スペースと繋がるメインホール部の共用ロビーを介して通り抜けが可能な公共空間として再整備したこと、これにより中庭を通して北側の冷泉通と繋がった南、二条通側の施設全体の表情と外構を、改修した事務所棟1階のブック&カフェとともに通りに開かれたものにしていることである。
 文化的価値の高いモダニズム建築を将来にわたり親しまれ、活用されるように改修に加え部分解体新築したこの施設整備は、公共建築としての機能と施設水準の向上という本来の目的に対して高度に応えるだけでなく、既存建物の価値保存に対しても繊細で入念な対応がなされ、全体として実に密度の高い施設整備が達成されている。


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