第27回BELCA賞ベストリフォーム部門表彰建物

北菓楼札幌本館

所在地

北海道札幌市中央区北1条西5丁目

竣工

1926年(大正15年)

改修年

2016年(平成28年)

建物用途

[改修前] 事務所(北海道立文書館別館)
[改修後] 物販店舗

建物所有者

合資会社ホリホールディングス

改修設計者

樺|中工務店、安藤忠雄建築研究所、巨シ島設計

改修施工者

樺|中工務店、三鉱建設梶A東洋建設工機梶A加茂川啓明電機
 1926年(大正15年)に竣工、90年間親しまれた「北海道庁立図書館のファサード」を保存しながら、北海道のお菓子屋さんである「北菓楼」の札幌本店に再生した建築である。大通公園の一筋北側、北海道神宮の表参道(北1条通り)に面している。「北海道庁立図書館」は摂政宮(後の昭和天皇)行啓記念事業として建てられた北海道初の本格的な図書館である。設計は、北海道大学総合博物館などの設計を担当した萩原惇正を中心とする道庁建築家技師。柱が複数階にまたがるジャイアントオーダーと、直線を用いた幾何学的意匠を特徴とするセセッション様式でデザインされた外壁は特に歴史的価値が高く、平成2年に札幌市より「さっぽろ・ふるさと文化百選」に選出されている。図書館として昭和42年まで使用された後、北海道立美術館(後に道立三岸好太郎美術館)となり、その後昨年まで道立文書館別館として利用されてきた。
 今回のリフォームでは、竣工当時の景観を最大限保存・修復すること基本方針とし、表通り(南側と西側)に面するレンガ造の外壁と玄関ホールを補強・保存し、その他は全て新しい建物に建て替えている。新築部分は高層化せず、既存ボリュームを維持している。外観については、寒冷地対応の改修の積み重ねにより後付された屋根や幕板を撤去するなどオリジナルデザインを復元している。外壁タイルも手作りに近い製法で製造された希少品であり、劣化による破損部分は解体する壁のタイルを生かし取りし酸洗いの上で再利用することにより風合いを継承すると共に環境にも配慮している。レンガ壁の補強はレンガ壁内で鉄筋とモルタルにより補強する難易度の高い手法とコンクリート壁を裏打ちする手法が見せ方により適材適所で使い分けられ、その壁を新築部の躯体がサポートする合理的な構造になっていた。店舗の内部空間は、3階分の大空間に2階の床が浮いているような形となっており、保存されインテリアとして見せることになったレンガ壁と新築の梁のないフラットスラブの対比、そして全体をまとめているクロスヴォールト天井が絶妙なバランスで調和していると感じた。玄関ホールは周囲を鉄筋コンクリートで補強し、階段自体に力を伝えない構造とすることで大正の職人技を伝える造作・擬石仕上げをそのまま保存している。2階のカフェテリアの壁は、かつてここが図書館であったことを継承し全面が北海道、お菓子、食、建築の本が並ぶ本棚になっており、市民の集う賑わいのある場所を包んでいた。設備ついては玄関ホール照明、外灯は、オリジナルを意識して修復している他は基本的に新築である。BELCA賞の選考にあたって、良好な建築ストックの形成に寄与することが目的であることを踏まえ、建築としては大半が新しくつくられている点が議論としてあがったが、市民に親しまれてきた歴史的建造物の景観の継承・復元した「外」に加え、「内」も菓子店舗として、市民のサロンとして札幌の新しい魅力ある場所になっている点を高く評価したい。

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