第27回BELCA賞ベストリフォーム部門表彰建物 |
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小津本館ビル |
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所在地 |
東京都中央区日本橋本町3-6-2 |
竣工 |
1971年(昭和46年) |
改修年 |
2015年(平成27年) |
建物用途 |
店舗、事務所 |
建物所有者 |
鰹ャ津商店 |
改修設計者 |
鹿島建設梶A褐侮揀fザイン研究所 |
改修施工者 |
鹿島建設 |
和紙の製造販売を生業とする小津商店が、江戸時代以来の創業の地である日本橋に、1971年に建設した「小津本館ビル」のリニューアルプロジェクトである。 和紙の伝統と文化を守りつつ、和紙に関する情報を国内外に発信する重要な拠点として、1階に店舗、2階にギャラリー・資料館・文化教室などを設け、上部は貸事務所というのが改修前の階構成であった。 旧耐震建物ゆえ耐震性能上、建て替えもしくは耐震補強が必須であったが、資料館やカルチャー教室などの地域貢献的要素を包含する当該建物を、小津グループのシンボル建物として長期に使用し続ける、という大方針が打ち立てられることとなった。 所有者の旧建物への強い愛情と意志があってこその決断に感服するものである。 結果、東京都特定緊急輸送道路沿道建物としての助成を受けた上で、居ながらの免震改修によって再生させている。 通常の耐震補強を採用しなかったのは、上層階のテナント専有部に鉄骨ブレースなどを設置した場合、貸室面積の減少や使い勝手の悪さからテナントビルとしての価値が大きく損なわれるためであった。免震階およびその上下階を集中的に補強することで耐震性能アップをはかる免震改修の採用に至るが、本建物が敷地いっぱいに建っていることから1階柱頭免震が唯一の実現可能な手法であった。ただしそこには、大規模地震時に隣地境界線を越えてしまう可能性のある外部避難階段の外壁のセットバックなど、設計上、施工上のきめ細かい対応、工夫が凝らされていることも追記しておきたい。 また、1階柱頭免震ゆえ免震層が外部に露出することとなるが、江戸を意識した外装デザインを堅持した庇の改修には秀逸なデザイン上の工夫がみられる。 一方、1階の内装については、内装デザイナーとの調整を図りつつ、間仕切り壁の全周にわたって水平にエキスパンションジョイント目地をまわしているが、設備ダクトや配管などのフレキシブル化などの技術的課題をきれいに整理した上での、全く違和感のないデザインであり、見事な仕上がりともなっている。 これらのきめ細かな対応は、基本設計段階からの、所有者・設計者・施工者の3者が一体となった諸検討が効果を発揮したようである。そこでは地震のレベルによって、建築と設備の機能維持がどうなるかを総合的に示す一覧表の整理などによる、所有者との合意形成なども含まれる。また、ジャッキアップ工法による居ながら工事は難易度も高く、関係者間の良好なチームワークを大いに評価したいところである。 改修後は1〜3階に店舗・展示室(美術館、博物館)・教室・和紙体験コーナーを集約し、4階以上を貸事務所と明確に区分しているが、一般の人々の利用が多い低層階には専用のエレベーターを配置するなどバリアフリーへの配慮なども尽くされている。 竣工後40〜50年経過した中規模オフィスビルが更新時期を迎えつつある中、都心部にある特定緊急輸送道路沿道建物の再生の好例として、高く評価したい。 |
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