第26回BELCA賞ベストリフォーム部門表彰建物

日本橋ダイヤビルディング

所在地

東京都中央区日本橋1-19-1

竣工

1930年(昭和5年)

改修年

2014年(平成26年)

建物用途

事務所・倉庫

建物所有者

三菱倉庫

改修設計者

且O菱地所設計、樺|中工務店

改修施工者

樺|中工務店、鰍ォんでん、轄O電社、高砂熱学工業梶A斎久工業
 1930(昭和5)年に竣工した国内最初期の都市型倉庫であり、2007年に東京都選定歴史的建造物に指定された、「三菱倉庫江戸橋倉庫ビル」の一大リフォームプロジェクトである。
 物流構造の大きな変化により舟運が途絶え、首都高速道路が建設されるに至って、この江戸橋周辺の景観は一変することとなった。江戸橋周辺を再び活性化することを目指し、川筋の景観を特徴づけていた「江戸橋倉庫ビル」の外観を保存・継承することによって特定街区制度での容積割り増しを得、地上18階の高層ビルを建設し、新たなランドマークとして生まれ変わったのが、この「日本橋ダイヤビルディング」である。
 保存建物は表現主義的な作風を有し、建物全体が船舶のイメージを彷彿させる。日本橋川および楓川から直接建物内に荷揚げを行なうためのバルコニーや開口部のデザイン、そして船橋状の塔屋など、外観には局所に遊び心のある機能美が表現されており、本建物の大きな特徴となっている。
 プロジェクトの実現に向けては、様々な先端的技術が導入されている。
 既存建物が川に囲まれた敷地一杯に建っていることから、竣工時の外壁デザインが残りかつ内部空間も特徴的な東西2スパンずつ(躯体40%、外壁70%)を残して中央部を解体し、高層棟を増築している。そして、近接する首都高速への安全性確保の観点から、低層部の保存部分と増築部分とを構造的に一体にしたうえで、高層部を中間層免震によって低層部と縁切りし、免震層のメガトラスを利用して既存躯体の上にオーバーハングする架構形式とした発想は圧巻である。
 一方で、特徴的な素材感を醸し出しているモルタル仕上げの低層部外壁は、繊維入りモルタルにスタンレスメッシュ補強をし、耐久性・安全性を高めた上で表情や色調を再現している。また、鋼製の外装サッシュは執務室では二重サッシュ化するなど、遮音性や断熱性の向上などの今日的な機能性とデザイン性を両立させているきめ細かな配慮は見事である。
 低層部の80年を経た躯体はアンモニアガスなどの発生リスクが無く、高品質な都市型倉庫として再生されることとなった。一部は事務室として転用が図られているが、照明とスプリンクラーを合体させた設備ラインを吊り下げ、側面からの直吹き空調とするなど、丸柱とフラットスラブというシンプルな構造美を活かした豊かな空間に生まれ変わっており、新鮮な空間体験であった。
 都市型倉庫という機能上、複数変電所からの電源確保や、重要機能をつかさどる諸室を中間免震層の上に配置する、川の氾濫に備えて地下重要諸室を水密区画するなど、BCP対応には特に強い配慮がなされている。
 また、省エネルギーに対する取り組みとしては、高断熱ブラインドの採用をはじめとする断熱性の確保、自然換気や太陽光発電、人感センサーやLED照明、雨水利用、屋上緑化など、様々な先進技術を導入して環境性能の向上をはかり、CASBEEのSクラスの認証を得ていることは大いに評価したいところである。
 川に面した外部テラスを展示空間として整備し、エントランスホールと共に一般公開をしている。江戸時代から続く河川物流史と倉庫業史を重ね合わせたユニークな展示館として、市民の名所となることを期待するものである。

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