24回BELCA賞ベストリフォーム部門表彰建物

アーツ前橋

所在地

群馬県前橋市千代田町5-1-16

竣工

1987年(昭和62年)

改修年

2012年(平成24年)

建物用途

[改修前] 商業施設(百貨店)
[改修後] 芸術文化施設(美術館)

建物所有者

前橋市

改修設計者

水谷俊博建築設計事務所、潟Cーエスアソシエイツ一級建築士事務所、拒蜻設備事務所

改修施工者

佐田建設梶A鵜川興業梶A橋詰工業梶A利根電気工事梶A褐Q電、潟с}ト、パナソニックESファシリティエンジニアリング

市街地中心部にある既存商業施設をコンバージョンにより、美術館として生まれ変わらせたプロジェクトである。その成功の要因として、2010年に策定された「前橋市における文化芸術施設基本計画」における「アートでつながる市民の創造力」という基本理念にもとづいて、この施設の設置目的を「アートと市民とまちをつなげていくこと」においた事があげられる。そして2011年に設計者選定を全国公募型の公開設計競技で実施し、事業全体を通した透明性の確保に加え、施設が生まれ変わるプロセスを含めて市民へと広く発信した。
 リフォームされたのは、既存施設の地下1階、地上9階のうち地下1階、地上1・2階の約5,000uであり、 上層部立体駐車場は既存のまま使用している。
まず、建物の外観は、既存の施設のゆるやかな曲面状の外形を場所の記憶としてとどめながらも、その曲面をなぞるように、構造負荷の低い厚さ10ミリのアルミの特注パンチングメタルで被っている。このパンチングメタルは、下部から上部へかけて孔のサイズを変える事で上昇感を演出しており、パネル下地最上部に照明設備(LEDシームレスライン)を設置することで、昼夜においてまちの中心部の新たな文化発信拠点としての場を創出している。
 まちとダイレクトにつながる1階はまち行く人が気軽に立ち寄れ、市民に開かれた美術館として多くの来場者に訪れてもらえるようにオープンな表情をつくっており、1階の交流スペースは、アーカイブ、ショップ、カフェなどの機能が点在しながらも一体的に計画されており、来館者が展示作品の魅力を楽しむだけでなく、積極的に利用できる場所づくりがされている。
 展示空間は、まず既存のエスカレーターを撤去して、ぽっかり穴のあいた吹抜を介して下階が見える構成から始まり、プロムナードとして、地下空間に導かれ、壁面に新設した様々な大きさの開口を通して、既存の状態のまま残した現しの躯体等の建築要素の多様な姿を、美術展示品や人々の活動と共に体感できるようになっている。また、展示室の天井は、リフォームによる空間特性を効果的に活かしながら天井高を確保するために、基本的に露出天井としながらも、既存の姿に沿って綿密に計画された空調ダクト(グラスウールダクト綿布巻きの上に塗装)、及び照明器具(2回路配線ライティングダクト)などは、本プロジェクト独自の設計及び製作を行っており、これらの工夫が空間の魅力を一層高めている。
 全国の各地方の公共施設の多くが改修時期を迎える中で、本事業は既存施設のリフォームにより建物の長寿命化を図り、デザイン面の刷新を行うことで、建物の記憶を留めながら文化芸術施設としての新たな発信拠点を誕生させているという意味で、公共建築の試みとして先駆的なプロジェクトであるといえる。

第24回BELCA賞に戻る

BELCA賞トップに戻る