20回BELCA賞ベストリフォーム部門表彰物件

YKK 丸屋根展示館

所在地 富山県黒部市吉田200
竣工 1958年(昭和33年)
改修年 2008年(平成20年)
建物用途

史料館(改修後)
工場(改修前)

建物所有者

YKK

改修設計者

潟Aプルデザインワークショップ
泣Iンサイト計画設計事務所
轄\造設計集団(SDG)
椛麹設備計画

改修施工者

第一建設
黒部エムテック

  富山湾に程近い黒部の地に主力工場として、広大な敷地と施設群を持つ「黒部事業所」に残る最古の工場建築(昭和33年に建設されたファスナーの基布紡績工場)の技術資料館への再生プロジェクトである。
  基幹工場として拡大拡張を続けた同事業所の生産ラインが、一部海外移転することで敷地内に空地が生まれたことから、1991年以降「黒部工場環境整備計画」として工場正面に一種の社会貢献として森を再生し、文化施設を散在させる計画などがなされた。
  企業の技術的歴史を展望する意図で計画された「丸屋根展示館」は、そうした構想の中で、一般市民に開放された緑地(YKKセンターパーク)に休憩施設としての役割も付与されながら、最古の工場建築として維持・保存されてきた、RCシェル構造のヴォールト屋根が特徴的な数棟12,000uほどの工場の内の2棟3000uを活用して展示館として再生された。
  2005年に実施した耐震診断に基づく耐震補強を施し、一棟を非公開の文献史料と製造機械の「保存室」とし、もう一棟を一般公開の「展示室」とラウンジとして設え、双方を丸屋根に対比した凹形状の鋼製吊り構造キャノピーでつないでいる。
  「展示室」には展示機能とラウンジ機能を満たす為に、設計者が「引き算」作業と称する、更なる屋根や壁の部分撤去と部分増築を実現する構造要素が、意匠性を加味しながら直截的に付加されている。壁や屋根を引き算して、緑の景観と風を取り入れたラウンジと野外テラスは大変気持ちの良い空間として再生されている。
  展示室の空調方式は、空冷ヒートポンプパッケージを東西の機械室にそれぞれ4台ずつ配置し、室内への送風はFRPを利用した壁面一体型のノズル形吹出し口によるスッキリとしたデザインである。ここで、空調機械室をレタンチャンバーとしているが、消音対策にもう少し工夫があればより良い展示環境となったであろう。外気処理は全熱交換機を採用し、省エネを図っている。
  外観的には、当時の工場としての記憶を残すことを意図した「切断のデザイン」としてヴォールト屋根の端部やコンクリートダクトの切断面を見せているが、既存建物の構造を在るがままに残す潔さは、所謂割切りとは異なる設計者の意思が感じられる。
  厳しい自然環境の中で長期間に亘って維持されながら資料も記録も不明確な状況下で、工場の再生を実現する為の施工をしながらの評価や判断は、施主・設計者・施工者の親密な協働がなせる業といえるであろう。
  現在未使用の「保存室」に生命が吹き込まれたとき、OBを含む従業員に長く親しまれた丸屋根工場が、二棟構成の「丸屋根展示館」として本来的な一体施設となり、更に、関係者が苗木から育てた木々が成長し森が再生されたとき、木陰に佇み、木漏れ日に包まれる「丸屋根展示館」が完成する。
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