20回BELCA賞ベストリフォーム部門表彰物件

西新井大師総持寺本堂

所在地 東京都足立区西新井1−15−1
竣工 1971年(昭和46年)
改修年 2008年(平成20年)
建物用途

2階:本堂、1階:玄関ホール、倉庫(改修後)
2階:本堂、1階:お札渡し所、寺務室、倉庫(改修前)

建物所有者

宗教法人 総持寺

改修設計者

清水建設活鼡煙囃z士事務所

改修施工者

清水建設

西新井大師総持寺は、創建以来千年を経た関東では最古の真言宗豊山派寺院であり、幾度かの火災の都度、浄財による再建を繰り返している。1971年に再建されたRC造の現本堂は、常に人々の賑わいに包まれた、足立区のシンボル的存在でもある。
  吉田五十八の弟子として知られる大関徹設計の本堂は、戦後主流となったRC本堂であり、様式的には「木造意匠折衷型」に分類され、入母屋錣葺きの壮麗な外観が寺院の中核施設として多くの参拝客に親しまれている。
  今回の改修命題は「耐震性能の向上」に加えて、地域に親しまれた「外観・内観の保存」と初詣に70万人の参拝客を集める都内有数の寺院として、混雑時の動線改善を指向する「機能性の改善」が掲げられた。しかも寺院行事を阻害しない為に節分明けから七五三までの限られた期間が工期として与えられた難工事である。
  階高の高い2階本堂に対して1階倉庫の階高が低い建物の、しかも限定した施工エリアで諸条件を満たす為に、1階柱頭部に免震層を設ける中間階免震レトロフィットが採用され、構造的な制約を解放された1階は、動線改善にも有効に活用されている。
  大地震後の避難場所として継続使用可能で、屋根瓦を脱落させず、本尊の転倒も防ぐという目標をクリアする構造スペックを、高減衰積層ゴム支承32台・弾性すべり支承7台・オイルダンパー8台で実現し、液状化対策と水平力負担の為に本堂自重を反力として鋼管杭を108本圧入するなど、高い施工能力を存分に発揮している。
  本リフォームは、耐震改修と寺院行事に配慮した動線の改善を目的としているため、設備的には本堂の免震化に伴い、幹線・避雷導体や給排水管の免震化対応、ITVカメラおよびモニターの設置や本堂放送等の追加工事がされている。また、屋内消火栓の設置による防災性能の向上、換気設備の追加や2階本堂に床暖房の新設等、使い勝手の向上に伴う改修もされている。もともと「お寺さん」の本堂には設備が少ないものであるが、大地震直後の地域の避難場所としての機能を果たす意味においても、これらの改修が地域住民に与える安心感という効果は大きい。
  混雑緩和対策の動線整備は本堂裏側の増築棟も有効に活用しており、エレベーター利用など障害者・高齢者など生活弱者に向けたバリアフリー対策や歩車分離の安全対策も当然ながら整備されている。
  社寺建築特有の意匠に配慮したエキスパンションの開発などはデザイン的にも特筆すべきであり、「耐震性能の向上」「外観・内観の保存」「機能性の改善」の課題に明快な解決策が示され、60年に亘る長期保全計画も整い、所有者・設計者・施工者の意思と意識が共有された、表彰に相応しい案件と評価する。

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