29回BELCA賞選考総評

BELCA賞選考委員会委員長  三井所 清典

 BELCA賞は、良好な建築ストックが現代社会の中で生き生きと活用され、未来に引き継がれることを目的に設けられた賞である。賞を2部門に分け、長年にわたり適切に維持保全され、今後も長期保全の計画がある模範的な建築物をロングライフ部門、社会の変化に対応したリフォームにより、見事に蘇生した建築物をベストリフォーム部門として、平成3年から昨年まで表彰件数は276件を数えている。
 BELCA賞への関心は年々高まりつつあるが、現代社会で活用されるためには、ロングライフ部門でも耐震改修や設備の抜本的現代化が必要であり、ベストリフォーム部門では建築寿命の長期化に伴い、利用者達の建物への愛着を重んじる傾向を深めている。そこで近年は、両部門の件数をあらかじめ定めず、合わせて10件を選考することにしているが、今年はロングライフ部門が少なく3件、ベストリフォーム部門が7件と多くなった。
 今回表彰されるロングライフ部門では、

・度々の時代に合わせた改修工事と震災による被害の復元工事を完成させ、建物の長寿命化に対する継続的かつ計画的な保全活動を実践している公立の専用ホール
・かつて金銀の箔打職人が住んだ町の一角にある、美術店や画廊のための端正さと品の良さが感じられ、維持保全の仕組みがしっかりできている小型のテナントビル
・30年から50年にわたる事業展開において、モダニズムのアーバンデザインによる住宅・商業・集会等の空間を消費するのではなく、維持発展させている心地良い複合施設の街並み

が入選した。
 また、ベストリフォーム部門では、

・仮曳家をもとに戻す二段階の曳家で地下増設と免震改修を行い、文化財としての質に改変を加えることなく、創建当時の姿を尊重しながら新たな価値を付加した、昭和5年竣工の旧皇族の邸宅を活用したレストラン
・街区再開発計画に基づく容積割増を活用し、昭和元年竣工の銀行建物の外観及び内部の装飾を最大限尊重して保存し、用途変更した結婚式場
・利用者のために、安全性・快適性・省エネ性向上の改修を行いながら、昭和6年竣工の村野建築の質を維持し続けているオフィスビル
・8階建ての既存庁舎の上層4階分を減築し、残存の部分につなげて減少した面積で4階建を増築し、デザイン上も一体化した庁舎建築
・多くの人の願いで保存されていた昭和45年の大阪万博のシンボル太陽の塔を、現代の技術基準をクリアするリフォームによって、2階建の建築として蘇らせた観光施設建築
・各部の保存ランクに基づき、耐震改修と安全性向上の改修を行ない、昭和13年竣工の旧公衆衛生院の文化財としての価値を保存した公立の郷土歴史館等複合施設
・昭和62年竣工の大型商業施設の商業機能を一部残しながら、公共の音楽ホール・図書館・公共サービス機能等をもつ施設へ用途変更した官民複合建築

が入選した。
 これらの建築物をみると、今回のベストリフォーム部門を受賞した7件のうち、4件が昭和元年・5年・6年・13年と昭和初期の竣工の建築であり、建築物の内外の意匠を保存して未来に伝えていきたいと願う関係者の気持ちが強く感じられるもので、ある意味ロングライフが期待されている建築物である。今年も区分を分けずにBELCA賞を選考する意味があったと思う。因みにロングライフ部門の3件は昭和44〜62年・57年・62年竣工と昭和後期の比較的若い建築物であるが、現代の良質な建築物を保全しながら大切に使って長寿化させようとする意志が明確なものであり、BELCA賞創設の主旨がよく現れている。
 今回は東京の建築物がロングライフ部門で2件、ベストリフォーム部門で3件、合計5件と多く目立ったが、まだ未受賞の地域が6県残っている。全国的な普及を目指すBELCA賞の趣旨から、未受賞の地域からの応募を切に期待したい。
 応募作品の保全技術が年々高まっていると感じられるが、惜しくも選に漏れた建築物については、さらに充実した内容で再度の応募を期待したい。

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