第29回BELCA賞ロングライフ部門選考評

 BELCA賞選考委員会副委員長 深尾 精一

 BELCA賞表彰建築物10件の中で、ロングライフ部門で表彰されたものは、今回は3件であった。昨年はロングライフ部門・ベストリフォーム部門5件ずつであったが、ベストリフォーム部門の数が多くなっているのは近年の傾向で、ストック活用時代のあらわれであろう。
 選ばれた建築は、昨年に引き続き、すべて戦後に建設されたものである。過去のロングライフ部門では、戦前に建設されたものが3割程度選ばれているが、昨年と今年の傾向は、建設後短期間で解体された建築が多いことを憂えた、BELCA賞創設の当時の想いに沿ったものといえるであろう。
 受賞三件のうち、一件は1982年、もう一件は1987年の建設であり、築後40年弱と30年強である。近年のロングライフ部門の表彰対象としては比較的新しい建築であるが、維持管理とその保全計画がしっかりしているものを表彰するという観点からみて、ロングライフ部門らしい作品であった。いま一つの受賞対象となったヒルサイドテラスは、1969年から長期に渡って継続して建設がすすめられた一連の建築が表彰対象であり、従来のBELCA賞ロングライフ部門表彰作品と比べて特異な建築群である。
 さて、1982年に建設された熊本県立劇場は、前川國男が設計した公共建築の中では比較的新しいものであるが、1993年以降、時代の要求の変化に合わせ、既に何度も改修が行われており、建物を長く使い続けようとする関係者の姿勢が感じられる建築である。そして、2016年に起きた熊本地震によって、外壁PC版のずれや高架水槽の破損等の被害を被ったが、原設計に忠実な復元工事が行われている。それに先立つ2015年には、長期に渡る保全計画が策定されており、運営指針も全国に先駆けて造られるなど、ロングライフビルとしてあり続けるためのソフト面での努力が高く評価された建築である。
 1987年に日本橋地区に建設された箔屋町ビルは、この地に生まれた設計者が、さまざまな思いを込めて造ったテナントビルである。といっても、一般的なテナントビルではなく、このあたりの骨董通りにふさわしい、美術店や画廊、そして所有者のアトリエなどが入る小ぢんまりとしたビルである。それだけに、設計者のこの建築に込めた想いは、優れたディテールと端正なデザインとなって、建設当初の姿がそのまま継続されている。設計者の廣田豊氏は、七年前に亡くなられているが、その後も、当初からこの建築に係った方々により、維持保全委員会が組織され、信託方式による管理によって、見事な維持保全が行われている。設計密度の高い小規模な建築のロングライフ化の手本といってよいであろう。
 ヒルサイドテラス1〜5期は、最初の第一期の建築が1969年に建設されて以来、50年が経過しているが、その間、一貫してオーナーと設計者の信頼関係のもと、時間をかけて開発を進めるという方針が堅持されてきた類まれな計画である。この間、耐震改修や設備の更新が行われてきているが、単なる建築の長寿命化ではなく、オープンスペース・ペデストリアンデッキ・中庭など、街並みが代官山そのもののイメージを長期間維持しているなど、総合的な街並みのロングライフ化という点でも評価できる建築群である。

 以上のように、今回のロングライフ部門の表彰対象は、3件がそれぞれ特徴をもった、バラエティ豊かな選考結果となった。建築物の長寿命化がさらに進む中で、BELCA賞の受賞作品もますます多様化してゆくことであろう。

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