第28回BELCA賞ロングライフ部門選考評

 BELCA賞選考委員会副委員長 深尾 精一

BELCA賞表彰件数10件の中で、今回はちょうど半数の5件がロングライフ部門での表彰対象となった。
 ロングライフ部門の過去の表彰対象をみると、3割程度が戦前に建設されたものであったが、今回の表彰対象は建設年が1965年から1986年と、すべて戦後の建築物であり、特に60年代後半のものが三つ選ばれたことが特徴的である。このことは、BELCA賞創設当初の狙いに合致していると言えるのではないだろうか。
 まず、1965年に建設された御堂ビルは竹中工務店の本社ビルであり、「後生に残し得るようなものを建てたい」というオーナーの建設当時の想いのままに、50年を超えた今も大阪のメインストリート御堂筋に存在している。建設当初にも最先端技術が適用されていたが、時代の変化に合わせて居ながらの改修工事が続けられてきた。近年のBCP対応工事はもちろんであるが、2016年から2018年に行われた改修では、床を抜いて吹き抜けを設け、層間のコミュニケーションの誘発を図るなどワークプレイスの改善も進めている。一方、外観については歴史のある窓形状が保たれ、全体として2040年までの改修計画が立案されているなど、まさにロングライフの建築である。
 続く1966年に竣工した山梨文化会館は、丹下健三の設計による、「成長する建築」の構想が具現化された意欲的な建築である。当初の趣旨通り、建設後に大胆な増築・改修が繰り返され、docomomo(ドコモモ)による日本の近代建築百選にも選定されている。すでに七回の大規模な改修が行われているが、2015年には耐震レトロフィットが行われている。巨大なシリンダー状の特異な構造体に対する免震構造化は、極めて高度なチャレンジであるが、当初の意欲的な建築を持ち続けたいという所有者の想いが、その困難さを超えて、この建築を愛され続けられるものにしている。
 1968年に建設された霞が関ビルは、誰もが知っている、高さ100mを超える日本初の超高層ビルである。半世紀を超えた今も、所有者の誇るテナントビルとしてそのブランドが維持されている。建設当初の様々な技術開発はあまりにも有名であるが、最初の試みとして、様々な面である程度のゆとりを持たせていたことが、このビルをロングライフのものとしているのではないだろうか。三次に渡るリニューアルがなされ、エネルギー消費量も大幅に低減されている。50年の間に街区全体も整備され、まさに日本を代表するロングライフビルとなっている。
 福岡銀行本店ビルは、1975年に竣工した、黒川紀章設計の大胆な構成のビルであり、明快な構成によって生み出された巨大な軒下空間が、公開空地として地域に開放され続けている。2013年に、この空間をより開放的な空間とするための検討が行われて、階段がスロープに置換され、街路との繋がりが強まっている。オープンカフェの設置など、市民に親しまれるビルになったと言えよう。20年を超える今後の維持保全計画もしっかりと作成されており、ロングライフな建築として生き続けるであろう。
 サントリーホールは、1986年竣工であり、築30余年と他の4件に比べて築年数は浅いが、この間最適な音楽空間であり続けるための努力が継続されている建築である。特に、建築と設備の設計者・音響設計者・運営管理者・施工者等による「定期的な会議体」が、ほぼ同じチームで施設と運用のモニタリングを続けていることは、特筆されて良いであろう。中長期修繕計画も五年ごとに見直され、すべての関係者から要望が拾い上げられている。その中で、改善すべき項目については改修がしっかりと行われており、今後も優れた音楽の殿堂としてロングライフであり続けるであろう。
 以上のように、今回のロングライフ部門の表彰対象は、1965年から75年の間に建設されたオフィスビルが4件と、特徴的な結果となった。このことも、BELCA賞の狙いからすれば、有り得べき結果であると言えよう。

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