27回BELCA賞ベストリフォーム部門選考講評

 BELCA賞選考委員会副委員長 深尾 精一

BELCA賞表彰件数10件の中で、今回も昨年に引き続き、6件がベストリフォーム部門での表彰対象となった。近年は、ベストリフォーム部門の対象建築物も、戦前に建設されたロングライフのものが多くなっていたが、今回は、戦前に建設されたものは1件のみで、戦後のものが5件となっている。
当初の建築年が戦前である「北菓楼札幌本館」は、北海道庁立図書館として1926年に建設され、その後、道立美術館となっていたものである。道が売却するにあたり、外壁の一部保存を要件とした公募型プロポーザルを行い、その結果、カフェを含む店舗にリフォームされている。特に歴史的価値が高いファサードと玄関部のみを残し、他のほとんどの部分は新築としているが、仕上げされていた保存部分の煉瓦造壁体の内側仕上げを剥がし、煉瓦を内装の要素とするなど、意欲的なリフォームとなっている。
「ロームシアター京都」は、前川國男により1960年に建設された京都会館の改修である。音響と使い勝手に課題のあった第一ホールは解体新築されているが、その他の部分は、現在の要求機能に対応するよう様々な手が加えられ、保存再生されている。中庭側のピロティの一部は内部化され、使い勝手のよいホール建築となっているが、設計者が「裳階のような手法」と呼ぶように、新たに付け加えられた建築的要素と元の建築が見事に一体化している。
「小津本館ビル」は、日本橋に立地する老舗の商店の免震化リフォームである。1971年建築の、いわゆる旧耐震建築物であるが、地域に根ざす企業として既存の建築を大切に使い続けるという趣旨から大改修が行われている。敷地境界の条件などから、一階柱頭での免震が採用されているが、外観では江戸を意識した庇の工夫により、そして内部は間仕切り壁上部の納まりの工夫などによって、見事な仕上がりとなっている。1970年代前後の中規模ビルの耐震改修事例として、設備やEVの処理なども、参考となるものである。
1974年竣工の「新宿三井ビルディング」は初期の優れた超高層ビルとして、1998年にロングライフ部門で第7回のBELCA賞を受賞しているが、今回は、共用空間の魅力度向上や長周期地震動対策のために行われた大規模改修によって、ベストリフォーム部門での表彰となった。特筆すべきはバックの諸室の整備で、ビルを支える人々が快適に働けることがビルの価値を高めている。また、長周期地震動対策には、屋上に吊るされた重量のある錘とダンパーを用いているが、施工中も施工後も、執務空間に影響を与えていない。
「群馬県立歴史博物館」は、1979年に大高正人によって設計された建築で、高い評価を受けてきたが、数年前に不具合のため文化庁の公開承認施設の登録が取り消されていた。それへの対応が主目的の改修であり、当初の特徴的な意匠は継承しつつ、エントランスロビーの環境改善などを図っている。また、中庭に面する軒下を内部空間化することにより、新たな使いやすい動線を可能にしている。今後の長期修繕計画・整備計画が策定されており、公共建築物の優れたリフォーム事例となっている。
以上の40年以上経過した建築物のリフォームに対し、「土浦市役所」にコンバージョンされた建築は、1997年に建設された大型物販店舗であり、築後20年経っていない建築のリフォーム事例である。新たな市役所の整備にあたり、土浦駅前の大規模店舗を入手し、大きなフロア面積を生かして、ゆったりとした市民に開かれた市役所を実現している。面積にゆとりがある分、賑わいにかける印象もあるが、新設ではない庁舎建築を作り出す今日的な手法である。
以上のように、今回の表彰対象も、当初の建築が高名な設計者によるものもあれば、特に優れた建築作品とは見られていなかった建物の活用の事例もあった。典型的な公共建築から純粋な民間のビルまで、そのバリエーションも前回と同様、多様なものであった。リノベーション・コンバージョンが建築の重要な分野となった証であろう。

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