第21回BELCA賞ベストリフォーム部門選考講評

 BELCA賞選考委員会副委員長 鎌田 元康

 本年度のBELCA賞の応募物件数は、昨年度に比べロングライフ部門で微増、ベストリフォーム部門で微減、全体で微減であった。その中にあって、今回のベストリフォーム部門表彰物件数は、昨年度より1件増え、7件となった。表彰に値すると評価された7件は、例年通りの激戦を勝ち抜いた物件だけに、それぞれ極めて優れたリフォームであり、改修内容も以下の物件ごとの概要に示すように、近年になく多岐にわたったものであった。その詳細を記すのに部門選考講評に許された字数はあまりに少なく、詳細については、この後に示される物件ごとの選考評をご覧いただきたい。

 「石川県政記念 しいのき迎賓館」(1924年竣工、2010年改修)は、旧県庁本館(日本建築学界が保存要望)と「堂形のシイノキ」(国の天然記念物)の一体保存と県庁跡地利用により中心市街地の活性化を図ることを目的とした事業である。歴史的な価値の高い旧本館の正面部分は、レトロフィット免震の採用と鉄骨や炭素繊維による構造補強を施して残し、増築部分は保存部分の対比としてガラス主体の極めて透明性の高い現代建築とし、芝生広場から旧庁舎壁面を透けて見せるなどの工夫がなされている。丁寧な内装保存がなされた保存部分と、明るく開放的な増築部分が見事に調和していることに、現地審査を行った委員全員が感心させられた物件であり、かつ、省エネルギー面での工夫、平面計画が適切になされている。

 「国立大学法人 東京工業大学すずかけ台キャンパスG3棟」(1979年竣工、2010年改修)は、1970年代後半から実質的運用を開始したキャンパスにある高層研究棟のうち1棟のリフォームである。当該建物は、オフィス空間相互を、3mセットバックした縦シャフトで連結するという明快な構成となっているが、このセットバックした5m幅の空間前面に、下部ピン接合の非自立型でプレストレスを導入された“ロッキング壁柱”を、既存建物に吸収ダンパーを介して寄り添わせ、地震時における変形を特定階に集中させることなくコントロールする手法を開発・採用し、また、壁柱後方にできたボイド状空間に個別空調の室外機を設置し美観を向上させた点、および設備改修なども適切である点が評価された。

 「芝学園 講堂」(1966年竣工、2010年改修)は、創建当時より学園の講堂としての利用に留まらず、地域住民に開放され、映画鑑賞の場として親しまれ愛されてきた建物を、“新しい時代に従前と変わらぬ愛着を持って使い続けてもらうにはどうしたら良いか”の一点に向かって、学園・コンサルタント・建設会社が一体となり、考え抜き改修に取り組み成功させた物件である。冷房設備の新設、残響時間に配慮し設置した木質壁内側への空調ダクトの隠蔽と上下温度差を少なくするための工夫、男子校であるため不十分であった女子トイレの大幅増設、省エネ・省資源に配慮した設備機器の更新などが、平面・立面的に厳しい条件の中で行われていること、なによりも、学園関係者の建物への愛着と有効活用への熱意が評価された。

  「鶴岡まちなかキネマ」(1936年竣工、2010年改修)は、鶴岡市中心地で昭和初期から続いていた絹織物工場の移転を契機として、その跡地利用に、鶴岡商工会議所加盟企業の出資による民間資本のまちづくり会社が事業主体となって取り組んだ、中心市街地活性化プロジェクトによる改修物件である。トップライトからの明かりを得て、絹織物工場の記憶を呼び起こさせる木造トラスが美しく表現されたエントランスホール、梁下高さを確保するために地盤を掘り下げて階段状スラブを新設し、内装・椅子などの工夫により温もりと雰囲気のある空間を創出している40席〜165席の4つのシネマなどが評価されたが、これらは一次審査資料からは十分読み取れず、現地審査参加委員すべてが、書類による審査の限界を知らされた物件でもある。

 「南海ターミナルビル」(1932年竣工、2009年改修)は、なんばの中枢的役割を担いつつ増改築を繰り返し、機能や動線が複雑に錯綜する巨大複合施設となっていた当該ビルを、メインテナントである高島屋の“新本館計画(既存改修・新棟建設)”を契機として、全体を再構築・改修することにより街の活性化を指向したものである。“保存・再生・先進”のコンセプトのもと、歴史的景観としての北面外周部の補修・洗浄と乾式タイルへの貼り替えによる保存、中央に位置した“ロケット広場”の複数の庇の撤去と2本のマストに支えられたガラスキャノピーの大空間への改修など、多くの工事が適切に行われているが、各種大臣認定の取得や創意工夫により、快適な一体的適格建築に改修し得た点が特に高く評価された。

 「福岡パルコ」(1936年竣工、2010年改修)は、旧岩田屋百貨店本館が全面的に一新された商業施設であり、老舗百貨店の近接地移転により、福岡の代表的な街角の灯が消えていたものを蘇らせ、新たな商業文化の創生の起爆剤となった物件といえる。今回の大規模改修の要点は、安全性、事業性、環境の3点であるが、既存構造体を利用した上での巧みな耐震改修、特別避難階段・非常用エレベーター新設、店舗構成配置や共用部デザインの一新に加えての既存エスカレーター設置部の改修、既存外壁に新たな外壁を付加してのデザイン一新と二重外璧を利用した熱負荷低減、隣接建物の設備との一体的利用を前提としたバリアフリー面での改修など、多様な改修工事が適切、かつ、巧みに行われていることが評価された。

 「ローム京都駅前ビル」(1977年竣工、2010年改修)は、京都市内に本社を置く総合半導体メーカーが自社ビルとして取得した中規模の既存ビルを、“駅前都市景観への貢献”“環境負荷低減”“耐震性・快適性の向上”をテーマに、既存躯体を再利用し、仕上げと設備を全面更新することで新築同様に再生させたものである。塔屋一層を解体して近隣ビルとスカイラインを合わせ、京都の伝統である格子形状の太陽光追尾センサー付ブラインド内蔵ダブルスキンカーテンウォールに更新している。さらに屋上緑化・屋上壁面緑化、各種高効率機器の採用、雨水と空調用ドレイン水の利用、デマンド制御による最大使用電力制御など多様な省エネ・省資源手法を採用し、耐震補強や不要となった地下機械室の食堂への転用なども適切に行われているなど、ストックの再生に向けた努力が評価された。

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