第19回BELCA賞ベストリフォーム部門選考講評

 BELCA賞選考委員会副委員長 三井所 清典

  第19回BELCA賞ベストリフォーム部門は今回も応募が多く、改修が時代の潮流となっていることを示すと共に、その質の高さはわが国のリフォーム技術が確実に向上していることを示すものである。第一次審査から難しい選考であったが第二次審査は更に厳しく賞の数の枠が恨めしくさえ思えた。今回の審査では公共団体が既存建物を大事に扱い、リフォームによって活用を続け、その後の維持管理にも配慮しようとする傾向が見られたこと、個性的な「街」の中の建物改修がその個性と協調することによってその街の雰囲気が更に良くなること、創設のコンセプトを尊重したリフォームが落ち着きのある現代性をもつ魅力的な建築となること、超高層建築の耐震改修がはじめて行われたことなどに気づく審査であった。

 「永楽館」(1901年竣工、2008年改修)は出石の城下町らしい歴史的雰囲気を残すまちなみの一角に修復再生された芝居小屋である。昭和初期には映画館としても市民に親しまれていたが、1964年に閉館された後は所有者である創設者の家系によってなんとか保存されていた。そこに地域住民による復元運動が起り、約20年に亘る地道な活動が実って、大正時代の姿図へ戻す目標で再生された。人力による廻り舞台や花道の仕掛、舞台裏の化粧室も復元され、照明や場内の看板も昔に戻され、暖冷房機器もローボーイタイプなど目立たない工夫がされていて気持ちよい。芝居終了後に遠来の観客は舞台に上り、芝居小屋見学となって、城下町を活かす会の人々による説明を受けることもできる。再生した市民の喜びや誇りが良く伝わってくる施設である。

 「神奈川県立青少年センター」(1962竣工、2005年改修)は紅葉ヶ丘の公共施設群の一つとして、地域景観を形成し、県民に親しまれているもので、県有施設長寿命化指針に基き、新たな時代に対応する施設として再生、整備された象徴的施設である。耐震性能を向上させるため建物の一部を撤去し、耐久性向上のためにコンクリートの中性化防止措置、外壁タイルの補修、機能向上のために客席幅を広げる工夫などを行っている。また、設備改修では自然冷媒による空冷ヒートポンプやオゾン層破壊係数ゼロの新冷媒方式を採用する等環境配慮を重視した機能改善を計り、今後30年超の活用を目指した維持保全計画を定めている。公共施設改修のモデルとも言える再生である。

 「九州工業大学先端教育コラボレーションプラザ」(1927年〜1976年竣工、2008年改修)は創設の理念の再生を目標にして、複数の建物の改修と広場及び動線・軸によるネットワークの核の再生が明快なキャンパスの魅力を取り戻している。教育空間としての交流の場の整備、高度情報機能の整備、大学史料館の整備等が複合的に実践され、耐震性の向上、省エネルギー性の向上、バリアフリーの向上等の性能向上にも配慮された改修である。中でも総合教育棟の1階を貫く軸の形成と原設計のコンセプトを継承した学術交流ホールのシンプルな空間再生は全体を象徴する創造的リフォームとして印象的である。

 「日本大学理工学部駿河台校舎5号館」(1959年竣工、2008年改修)は戦後復興期の建築様式である「ニューブルータリズム」の記念碑的建築として大学は保存を決め、外観保存を重視する改修計画が検討された。この建物は建築学科がほぼ単独使用する施設であることから、いかにも建築教育の場と思われるいろいろの耐震補強技術が適用されていて大変興味深いが、実は外壁から道路境界までの距離が極端に少ない都市型建築の免震化モデルをねらったものでもある。3階柱頭に免震装置を設け、粘性ダンパー「減衰こま」によって免震層の変位を150mmに抑えている。免震層下部にはコンクリート増打による耐震補強とトグルダンパーによる制震補強を行っている。結果としてこのハイブリッド耐震技術によって建築学科棟らしい美しい建築の再生に成功している。

 「碧南市藤井達吉現代美術館」(1980年竣工、2008年改修)は旧商工会議所を郷土出身で近代工芸の先駆者藤井達吉を顕彰する美術館に用途変更したものである。この建物は街道の四ツ辻の一角を占め、黒っぽくまとめられた外観は寺社、醸造施設、蔵や古い町家の黒板張りの外壁や塀、和瓦が醸し出す界隈の雰囲気によく調和している。以前は駐車場になっていたと思われる前広場にアプローチデッキ、テラス、10mのガラスキューブのレストイランなど市民が自由に出入りできる場を付設し、四ツ辻の親しみと華やぎを創出している。また、美術館への変更では基礎梁の背を詰めて階高を確保したり、最上階には収蔵庫を納める工夫等多くの創意が発揮されている。ここでは普通の建物を種に設計者や工事者の意欲を引き出した発注者に敬意を表したい。

 「ホテルニューオータニ本館」(1964年竣工、2007年改修)は東京オリンピックの開催を契機に内外の賓客を迎える宿泊施設として建設され、以後40年余りその機能を果たしてきたが、今回の改修で仕上や設備を変えて機能・性能・イメージの一新が図られている。ここでは全体に「和の味わい」をテーマにし、外装は以前のアルミカーテンウォールの印象を継承しながらガラスカーテンウォールによる現代化に成功している。さらに特筆すべきは超高層建築の長周期地震動に対する信頼性向上で、コア部と各ウイング端部に制振ブレースを設けて耐震性を向上させている。設備の改修は省エネルギーを目的に取り組み、例えば利用者の好みで客室ごとに冷房あるいは暖房運転が行えるハイブリッド型FCUの採用で省エネ率40%を達成するなど大幅なCO2削減を達成している。
第19回BELCA賞に戻る
BELCA賞トップに戻る