19回BELCA賞ロングライフ部門表彰物件

武庫川女子大学附属中学校・高等学校 校舎棟

所在地 兵庫県西宮市枝川町4番16号
竣工年
(改修年)
1963年〜1965年(昭和38年〜40年)
改 修 年:2000年(平成12年)(芸術館)
建物用途 学校(教室棟、特別教室棟、講堂兼体育館、管理棟)
建物所有者 学校法人 武庫川学院
設計者 株式会社 竹中工務店
株式会社 大林組(内装改修の一部)
施工者 株式会社 竹中工務店
株式会社 大林組(内装改修の一部)
i維持管理者 学校法人 武庫川学院
 正門を入ると深い緑に囲まれた広場と美しい時計塔が迎えてくれる。四周が緩やかな曲面デザインの塔は、学校のランドマークとなっている。
 この校舎棟の建設は、武庫川学院創設者である公江喜市郎氏から示された「理想的な女子学園をつくる」との方針に基づきスタートした。
 公江喜市郎氏は兵庫県主席視学としてイギリスのパブリックスクール及びイートンパブリックカレッジを視察して感銘を受け、一貫した女子教育のため1939年(昭和14年)武庫川高等女学校を開校、教育環境の整備拡充のため戦後の復興期を経た1963年(昭和38年)から1965年(昭和40年)にかけこの校舎棟を建設した。戦後20年に満たない時期に建設された校舎棟の質の高さとキャンパス全体の豊かな環境に感銘をうける。
 校舎棟は正面の管理棟を中心にクラスター状に配置されている。クラスターは、管理棟、科学館、体育館で構成される中心軸の左右に中学校校舎3棟、高校校舎3棟を配する構成で、渡り廊下により緑豊かな中庭を介して連結されている。この中庭は、生徒の情緒を育む憩いの場であり、各教室南面に広く設けられたバルコニーに面しており、休み時間の楽しいコミュニケーションの空間ともなっている。フランス積のレンガタイル貼りの各教室棟は、ホールを中心に左右の教室に3分節して構成され、各教室棟を形づくるディテールと歴史を重ねたタイルによって光と影の豊かな表情を醸し出している。シンメトリーな整然とした構成美を見せる教室群は完成度が高く、時代の変化に応じて更なる施設整備のための校地が考慮されているなど長期的視野に立った計画となっている。また、正門横にある芸術館は、築74年を経た元鳴尾競馬場本館を再生整備したもので、豊かな心を育む教育環境づくりに役立てている。
 維持保全においては、安全性への配慮と利便性向上を重視し、中長期保全計画書に基づき実施されている。兵庫県南部地震の震災後、復旧工事に合わせた給排水、電気、空調などの大規模な更新改修工事が行われた。また、教育の変化に対応した教室の改修のほか、LAN敷設、テレビ会議システム、学外とのインフォメーションシステムの導入などIT化へも積極的であり、福祉対応便房の設置、扉引き手のユニバーサルデザインへの変更など安心への環境づくりもされている。省エネルギー化の推進として個別空調化と中央監視システムによる温度制御、室内照明制御システムの導入など時代のニーズに的確に対応されている。
 竣工後約45年を経て、創設者自らが選定して植栽した木々が成長して創り出されている環境の中にこの教室棟群は生き生きと息づいている。創設者の思いは現在の学校関係者に引き継がれ、その心を見事に具現化した設計者、施工者の思いも現在の設計施工関係者に引き継がれている。所有者、教職員、設計施工者の一体となった維持保全への取り組みに加え、生徒たちが日々行う校庭、校舎の清掃によりこの学校は美しく保たれている。
 今後とも永きにわたり、皆に愛され続けていく幸せな建物である。
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