18回BELCA賞ロングライフ部門表彰物件

伊勢丹本店本館
所在地 東京都新宿区新宿3丁目14番1号
竣工年(改修年) 1933年(1986,93,03,06年改修)
建物用途 百貨店
建物所有者 活ノ勢丹
設計者 清水建設活鼡煙囃z士事務所
施工者 清水建設
i維持管理者 活ノ勢丹ビルマネジメントサービス
 伊勢丹本店本館は、東京の副都心『新宿』のイメージを今に残す代表的建築である。
 明治19年(1886年)神田明神下に伊勢屋丹治呉服店として創業した「伊勢丹」が新開地である新宿に百貨店として進出することになったことが発祥の原点である。
昭和8年(1933年)竣工以来75年、そして創業122年という長い歴史を持った建築であるが、すでにその当時欧米で流行していた建築様式アール・デコをデザインの随所に取り入れ、現在のそれにも残されている低層部の石の彫りこみやブロンズのレリーフなど建設当時の面影を見ることが出来る。それ以来、隣接する建物の買収合併を行い、昭和40年(1965年)までに14期に及ぶ増改修を行っているが、とりわけ現在の外観のデザイン的特長を生み出したのは、昭和11年(1936年)の外装改修であり、ほぼ現在の姿になっている。そして昭和61年(1986年)には伊勢丹創業100周年事業の一環として、全館の外装全面改修を行い、時代のニーズに合わせた耐久性と安全性を考慮し、高層部のテラコッタとタイル、スチールサッシュは、既存のテラコッタとタイルのイメージそのままにGRCパネルやアルミサッシュに置き換えながら、昭和初期のアール・デコ調のデザインとしてのDNAは担保しつつ、近代化された装い(ファサード)が今日の姿である。
 さらに、この伊勢丹本店本館の特徴は、14期(ブロック)に及ぶ増築(つなぎ合わせ)による店舗としての一体的利用を図りながら、今日の大型店舗に相応しい床面積の拡大をし続けてきたことである。平成15年(2003年)からの5年にわたる全面的な耐震補強を行い、現行法規と同等の耐震性能をもたせている。
 また、維持管理、保全に関しては、長期保全計画を作成し、増改築ごとに、設備改修・更新が図られ、さまざまな省エネルギー化が図られ、同時に省エネルギー機器の導入がなされている。とりわけ、井水上水化プラントを導入し、その使用量削減に努めているなど、その実効性には細部にわたって、きめ細かい配慮がなされている。また、屋上の利用については、単なるデパートの屋上の集客空間とすることなく、今日的なテーマ性を持って、都市の公共性に鑑み、芝生広場や四季をテーマとした回遊式庭園など、積極的な都市の緑化と公共の開かれた空間を生み出している。
 今日まで、以上のような複雑多岐にわたる増改築や改修、そして時代の要請にも応えながら、経済的価値を優先しがちな商業建築なれども、優れて新宿という街の存在意義を高め続けてきた役割とその精神のゆるぎない持続性には敬意を示す他ない。いまや新宿のランドマークとして、その歴史的かつ街の継続的意義を含めてかけがえのない存在になっている点は、本賞ロングライフ部門に相応しい評価に繋がるものである。
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