17回BELCA賞ロングライフ部門表彰物件

天神ビル

所在地:福岡市中央区天神2-12-1

竣工年:1960
用 途:事務所
建物所有者:鞄d気ビル

設計者:樺|中工務店

施工者:樺|中工務店
維持管理者:鞄d気ビル

天神ビルは、福岡市の中心市街地である天神にあって、町の骨格をなす渡辺通り、明治通り、昭和通りが交差する中心街区に位置しており、1960年の建設当時は、最新のビジネスセンターとして計画された、九州の高度成長のシンボル的な存在であった。基準階床面積約2,300u、述べ床面積約33,000u超の規模を誇る、この巨大オフィスビルは、地上で地下躯体を構築しながら、同時に地上を施工するという当時の先端技術である、潜函工法を採用し、18ヶ月の短工期で建設されている。

この建物の、ロングライフビルとして注目すべき部分に、渡辺通りに面した、高さ42m、幅78mの巨大な外壁面を、フラットな表情でまとめた外観デザインがある。築48年の現在も建設当時の状態をそのまま維持しているが、これは外壁面を美しく維持する「セルフクリーニング」の考え方を先取りしたデザインではないだろうか。しかしながら、この「有田焼窯変小口タイル」の外壁は、割れや剥離による脱落を防止する、定期的な点検と修繕により、建設時の表情が維持されていることに注目したい。ここで実施された高度なタイル保全の技術は、今後の長寿命建築に必要な技術の一つになると思われる。

アーケードとして開放された1階のピロティ部分は、これも現在の「公開空地」を先取りしたような計画だが、花崗岩の柱列とガラススクリーンによる開放的な歩行者空間は、耐震補強による安全性を確保しつつ、当初の目的を現在においても十分果たしている。

竣工後30年を経過した頃から設備の更新を開始し、すでに一巡した。その後は5年間の中期保全計画を作成し、その計画に基づき運用管理を実施している。長く親しまれてきた建物であるが、建築設備で最も重要な機械室・変電室が整然と維持されており、変化する社会環境への対応がしっかりできていたということが窺える。熱源をガス・油からクリーンエネルギーの電気方式に変え、2か所ある変電所もキュービクル形として、安全で保守管理が容易になるよう配慮した。深夜電力を使用した氷蓄熱や照明の人感センサー、またELVのインバーター制御・台数制御や中水導入等、エネルギーの有効利用・省資源化・省エネルギー化を進めている。またITV(防犯・監視用有線テレビシステム)や指紋認証キーの導入、情報化対応のOAフロアや光回線導入等、現在も維持保全が計画書通りに実施されている。

茶褐色のタイルと隅部を丸くした形状のステンレスサッシュがつくる特異な外観の天神ビルは、活気ある福岡のランドマークとして広く市民に根付いており、所有者もこの外観を維持する方針を保持している。また建物の維持保全の実施も時代に合わせて堅実に実施されており、ロングライフ部門の優秀な物件と評価できる。

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