19回BELCA賞ベストリフォーム部門表彰物件

出石(いずし) 永楽館

所在地 兵庫県豊岡市出石町柳17-2
竣工 1901年(明治34年)
改修年 2008年(平成20年)
建物用途 芝居小屋(現在)
芝居小屋・映画館(改修前)
建物所有者 豊岡市
改修設計者 株式会社 福岡建築事務所
改修施工者 株式会社 川嶋建設
 「永楽館」は、明治後期から昭和初期にかけての但馬地方の大衆文化の中心として活躍した都市の劇場建築・芝居小屋で、日本の地方文化のポテンシャルの高さ、都市としての景観の美しさを感じさせる建物である。明治34年(1901年)の竣工で、内部に遣る回り舞台、奈落、花道など当時の貴重な劇場機構と共に、日本の近代化の中での市民建築、劇場建築の遣例としての価値が高い。明治期の芝居小屋として近畿地方に現存する唯一のものと言われている。
 明治・大正時代には歌舞伎芝居や寄席が上演され、その後は活動写真、昭和に入ると漫才や落語などが来演した。昭和5年(1930年)には映写室が設けられ、映画館としての活用も増えていったが、テレビ時代の到来により、昭和39年(1964年)に経営不振で閉館を余儀なくされた。閉館後は、創設者の家系によって保存されていたが、昭和60年代に始まった出石城下町の町並み保存運動のシンボルとして、地域住民による保存活動が行われた。かつて観客として拍手喝采した住民のコミュニケーションの場、楽しいひとときの思い出の場として、保存活動の原点となった。昔ながらの城下町の雰囲気を残すことを目的とする「出石城下町を活かす会」の活動と永楽館の復興運動は、街づくりとして一体のものである。住民主体の街づくり意識を高揚させ、単に建築を保存するのではなく、文化を再生する大事さ、New Developしない価値が明快に認識されている。
 地域住民による約20年の地道な保存再生活動により、行政がこれに呼応し、芝居小屋として最も反映していた大正11年(1922年)の姿図への復原を目標に、平成18年(2006年)に復原工事が着手された。シャンデリアは昭和を髣髴させる意匠が採用され、広告看板用の照明器具も修復され当時の雰囲気が感じられる。実際に活用されることを考慮した舞台装置が設置され当時の雰囲気を残して使用されている。熱源は空冷式ヒートポンプで、インテリア部分は天吊り形、ペリメータ部分は取り外し可能な床置式ローボーイタイプのファンコイルを目立たないように設け、当時の雰囲気を壊さないように考慮している。また、床暖房を併用し、温熱環境を向上させている。
 町の人々の永楽館への愛情・思いやりを得て、一時失いかけた町全体の活気を取り戻す事に成功している。受け継ぐべきものは、物や建物でなく精神である。芝居好きな個人が建設したもので、無駄を省いた質素な芝居小屋である。また、小学校から転用した鎧窓、修復した当時の広告看板を生かした工夫をしている。施工では、古材を大切にした最低限の部材交換、壁土・小舞竹の一部再利用、現況の伝統的な軸組工法を変えることなく構造補強・耐震補強を行っている。また、番付図、番付札を用いて、徹底した事前調査を元に忠実な復原が行われている。
 地道な作業無くしては再生できない、地元の持つ建築技術の高さ、文化財への理解の深さが結集したプロジェクトである。維持運営においては、株式会社出石まちづくり公社を設立し配当を出し、ボランティアに頼らない運営が、今後長続きする秘訣だと言っておられるのが印象的であった。
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