18回BELCA賞ベストリフォーム部門表彰物件

東洋大学 朝霞校舎 実験工房棟

所在地 埼玉県朝霞市岡48-1
竣工年 1979年(昭和54年)
改修年 2005年(平成17年)
建物用途 大学校舎(工房棟)
(改修前)大学校舎(研究棟)
建物所有者 学校法人 東洋大学
改修設計者 葛v米設計+内田 祥士
改修施工者 鹿島建設
 大学の組織再編の動きの中、新学部の設立に向け、使われなくなった校舎を思いきって改修し利用することで、1979年竣工の老朽化した校舎を見事に再生したプロジェクトである。
 当時倉庫として残っていた旧研究室棟を解体せず、躯体を極力スケルトンとして再利用し、その特徴を新しい学部のあり方に上手に重ね合わせるという学部側からの提案が、検討の結果、解体新築よりも工事費においても工期においても有利であるとの判断がなされ、実現したものである。壁構造の既存建物は構造的にも堅牢で補強もなしで再利用できることが検証された。従前中庭であった部分に既存躯体を利用して屋根を架け、新しい学部の教育スタイルの中で中心となる役割を果たす空間を創り出した。ここでは様々な新しい教育の試みが行われる。かつて中庭であったとは思えない豊かなアトリウム空間である。その周囲にはかつての研究室群の小部屋がつらなる。これらの部屋の間仕切りが構造体そのものである。それらを制約とせず、積極的に利用することで、1階では実験室、2,3階では学生たちのスタジオとして心地よく使われる校舎が出来上がった。そのインテリアには多くの木質材料が効果的に用いられた。各スタジオ小室天井の格子、廊下天井のルーバー、アトリウムの大きな天井のルーバーにも防火の認定を受けた木材が使われていて、暖かい雰囲気を創り出した。構造にも多くの工夫がある。中庭部分の屋根の荷重は当然増加したが、アトリウムに面したコンクリートの手すり壁を撤去することで全体の荷重は大幅に軽減、結果地震に対しての補強は必要ではなくなった。さらにその結果、施工性も経済性も大いに向上したものとなった。
 設備面においても、研究室を教室等へコンバージョンしたため躯体的に制約条件が多い中、天井面に木製ルーバーを設置、天井内に照明器具、コンセント・LAN取出口、配線用ケーブルラック及び空調機器を収納することにより、保守点検が容易でかつフレキシビリティーの有るものになった。空調設備は、電気式空冷ヒートポンプマルチエアコン(EHP)方式で個別運転及び制御性を向上させ、ランニングコスト、省エネルギーの低減が図られた。バリアフリー対策として、車椅子対応型エレベーター、多目的便所などを設置し、水廻りのディテールも細かな配慮がなされているのが目立つ。
 外壁は一切従前のままで変わらず、訪れる人は中に入って、学生たちの活発な活動を肌で感じて、初めてその変貌振りにびっくりする。これから大きく変化せざるを得ない大学キャンパスの中での、改修のモデルケースとなる好例である。
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