第11回BELCA賞ロングライフ部門選考講評

BELCA賞選考委員会副委員長 三井所 清典

 新しい体制で始まった第11回BELCA賞選考委員会は、その審査についても従来とは少し違った方法で進められた。すなわちこれまで、ロングライフ部門とベストリフォーム部門の二つの審査部会を設け、それぞれに審査を進め、最終的には合同する全体審査委員会で表彰物件を決定する方式をとってきたが、今回選考委員会は終始部門に別れることなく応募された両部門の物件を審査した。その結果、これまでのように審査のはじめに、応募物件をどちらの部門で審査することがより適切であるかという問題はなくなり、現地審査の過程を含め、その属性についても慎重に審議することができた。
 「大阪厚生年金会館」は、1968年の竣工以来、社会的状況の変化に対応して、増改築、改修が繰り返されて建物が維持されているが、それは毎年作成される整備計画書により丁寧に実行されている。これは、設計者、施工者、管理者の日常的な共同体制による成果である。多目的ホールを中心とする施設利用者は今でも110万人を超えており、公園を前にして建つ姿は、町の風景として大阪の街になじんでいる。
 「沖縄ハーバービューホテル」は、1975年の沖縄国際海洋博覧回のときに建設され、そのデザインや色彩からも、地域性を表現した沖縄の代表的ホテルとして多くの人々に利用されている。建設当時の社会的、地域的事情から、設計や工事に多くの課題を抱えたようであるが、それを誠実に克服し、その後の改善においては省エネルギー対策や客の要望解決などに巧みに応えている。なお、すでに次の改修計画も立案されており、長寿命化に努めている。
 「上高地帝国ホテル」は、1977年鉄筋コンクリート造の地上4階、地下1階の建物として建設されたものであるが、これは従前の木造のホテルのイメージを保存して建て替えられたものである。そのため、内外に多くの木を用いているが、継承性、自然との調和、更新の容易性などへの配慮に優れ、厳しい冬期の半年を閉鎖するという特異な経営方式にも拘らず、建物はよく維持されている。顧客に多くの常連の愛用者がいることはロングライフの良い証である。
 「ひろしま美術館」は、1978年竣工したもので、以来、市の中央公園の中で変わらぬ姿で時を刻み続けている。設計の段階から「時と共に美しさを増す」ことを意図し、設計と施工一体で行った様々な長寿命化の工夫により、今日まで大きな改修を必要としていない。もちろん、建物の維持管理は、設計思想を尊重して練られた維持保全計画書に基づいて継続的に実施されており、ロングライフの質を確保している。
 「立教学院諸聖徒礼拝堂」は1918年に建設されたレンガ造の建物である。関東大震災では妻壁の上部と屋根が壊れ、切妻の屋根から寄せ棟屋根に改修され今日に至っている。
今回、一層の長寿命化を計るためレンガ造建物としては、日本で初めての免震レトロフィットによって地中梁を含む地下構造に大改修を行い、地上部にも耐震補強を実施している。卒業生や学生達にとってほとんどその改修が気づかれていないほどの成功であるが、同時に大学の維持管理体制のあり方が高く賞されたものである。
 ロングライフ部門で表彰された建物の長寿命のあり方はさまざまであるが、肝要なことは何といっても維持管理体制のあり方である。今回の審査においても建物の持っている高い質の継続性、高い設計思想とその尊重がいかに大切であるかを気づかされる。なお、立教学院諸聖徒礼拝堂は、ベストリフォーム部門への応募であったが、選考委員会で慎重に審議し、応募者の了解を得てロングライフ部門で表彰した。