第13回BELCA賞ロングライフ部門表彰物件

三輪そうめん山本本社



所在地:奈良県桜井市箸中880
用 途:事務所・工場・倉庫
竣 工:1983年(昭和58年)
所有者:且O輪そうめん山本
設計者:樺|中工務店
施工者:樺|中工務店
維持管理者:繁建築設計事務所

 この建物は、奈良の日本古代史を彩る三輪山を間近に望む、歴史的な風景のなかに建てられている。
 建設当時のコンセプトとしては「目立たない建物、人々が寄り付きやすく親しみやすい建物」であったと聞いている。なるほど、建設から20年余りの歳月を経過してもなお、そのコンセプトは見事に生き続けているように見受けられる。
 建設当初、三輪山への景観を保つために敷地全体を1.5メートル盛土した事とか、隣接する敷地を景観保持のため買収した事などは、周辺の景観への並々ならぬ配慮の表われであると見受けられる。
 20年を経過した現在、その配慮は見事に効果を発揮し、環境に見事に溶け込んだ佇まいを見せている。さらに敷地内の雨水が隣接の田畑へ流出することを防止するため地下に800トンの雨水貯留槽を設けているなど、周辺環境への配慮は「かたち」だけに終わっていない。
特に、「むくり」をつけた寄せ棟瓦屋根は敷地周辺の盛土保護のために植栽された杉と良くマッチすると同時に、周辺道路から隔離した独自の環境を敷地内にかたちづくっている。
この建物は三期に亘って増築を重ねて現在の形に完成されたとの事であるが、機能的にも形態的にもその齟齬は感じられない形で完成し調和を保っている。
建物の維持管理については、建設構想の段階から建築主と建築顧問である繁建築設計事務所と設計者が密接なコミュニケーションをとり、施工時には施工者も含めて密接な意見交換がなされ、建築主の希望を実現に導いた経過を伺って、この建物の完成度の高さについて納得させられた。特に、屋根部分の瓦葺の精度と鋼製建具のディテールについては、特筆すべきものがあり、20年を経過して、立派にその精度を保っているのは特に評価すべきである。
 なお、建物の維持管理については、建設時から続いている、建築主、建築顧問、設計者、施工者の連絡体制が現在も健在であり、それに加えて建築主及び建物使用者である三輪そうめん山本本社の社員の方々の建物に対する愛情がひしひしと感じられ、清掃や簡単なメンテナンスは自分達で自発的にやってしまうという事実を伺って、幸せな建築だと羨ましく感じられた。