エンジニアリング・レポートの構成

 

 

 

ERの業務範囲(スコープ)

 

 

 

ERは、一般に「建物状況調査」、「建物環境リスク評価」、「土壌汚染リスク評価」、「地震リスク評価」で構成されており、各種リスク分析から将来予想される様々なリスクの可能性を抽出し、可能なものは定量化(価格換算)して評価を行っています。

ERの最も幅広い業務範囲(フルスコープ)は下表のとおりとなります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

調査報告書

調査項目

 

 

 

 

□建物状況調査

□立地・建築・設備概要調査

 

 

 

 

□更新・改修履歴 及び 更新・改修計画の調査

 

 

 

 

□構造概要調査、設計基準

 

 

 

 

□遵法性

 

 

 

 

□緊急を要する修繕更新費用

 

 

 

 

□短期修繕更新費用

 

 

 

 

□長期修繕更新費用

 

 

 

 

□再調達価格の算定

 

 

 

 

□建物環境リスク評価

□フェーズT

□アスベスト

 

 

 

 

PCB

 

 

 

 

□その他の調査項目

 

 

 

 

□土壌汚染リスク評価

□フェーズT

□土壌汚染の可能性

 

 

 

 

□地震リスク評価

□地震による予想最大損失(PML

 

 

 

 

ERのスコープは多岐にわたるものの、ERの利用目的に応じてフルスコープで作成することもあれば、委託者(不動産所有者、不動産購入者、金融機関等)との協議の上でスコープをカスタマイズすることもあります。スコープを変更する際は、ER委託者とER受託者の間で協議を行い、調査項目の確認、調査期間の確認、報酬額の増減等を確認する必要があります。

ERのスコープは「建物状況調査」、「建物環境リスク評価」、「土壌汚染リスク評価」、「地震リスク評価」に大別されます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆建物状況調査

 

 

 

建物状況調査は、建物の重要な部位や設備機器の経過年数、故障箇所の状態、安全性の問題、遵法性、日常の保守の状況等を管理関係書類の閲覧や建築・設備の現地調査で確認し、施設管理者等へのヒアリング等と併せて、建築・設備の劣化度、修繕等の重要性や緊急度に関する調査及び評価を行い、その概算費用の予測等を行うことを目的とします。

建物状況調査の主要項目は、「遵法性調査」、「修繕更新費用」、「再調達価格の算定」となり、建物や建築・設備の概要とその状態を書類等調査と現地調査から評価を行います。書類等調査においては図面、届出書類、保守管理報告書等から建物状況の情報を把握し、現地調査においては、足場、梯子等は使用せずに、立ち入り可能な範囲で代表箇所の目視調査を行い建物全体の劣化状況の想定をします。

 

1.遵法性調査

ERにおける遵法性調査とは、対象不動産にかかる建築基準法、消防法や都市計画法等の建築基準関係規定(建築基準法施行令第9条)への適合性について法的に必要な手続きや届出書類等の履行状況を調査することであり、書類等調査及び現地調査から建物の現状を把握し、建築確認検査完了時点との相違、建築基準法及び関係規定の法違反・不適合の可能性を指摘するものです。関係法令についてはできる限り把握し調査することが望ましいですが、不明な部分については事実記載を行うことを基本としています。

なお、遵法性調査は、行政に代わって方の適合状態を判断するものではありません。

 

2.修繕更新費用

ERの修繕更新費用は、建物が一般的な機能維持、安全稼働していくことを前提に算出されており、改修を目的とした費用ではありません。修繕更新費用は、以下のとおり、短期修繕更新費用と長期修繕更新費用に区分され、短期修繕更新費用は緊急を要する修繕更新費用と短期修繕更新費用(1年以内)に区分されます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

@緊急を要する修繕更新費用

主として人命、安全に関わる事項及び遵法性での明らかな違反事項に対して、直ちに修繕・更新が推奨される費用。

 

 

 

 

A短期修繕更新費用(1年以内)

主として日常の保守よりも優先的に修繕や部品交換が必要な不具合に対して、1年以内に修繕・更新が推奨される費用。

 

 

 

 

B長期修繕更新費用

経年劣化に対する修繕や建物の適切な機能維持、安全稼動していくための修繕・更新が推奨される費用。

 

 

 

 

なお、建物の修繕更新費用は、竣工当初の性能が保持される10年程度の間は大きな金額が生じない傾向にありますが、10年を経過すると経年による大規模修繕等が想定されるため、ERの再評価時の修繕更新費用は、前回の調査時点より、非常に大きく算出される場合が多くなります。

 

3.再調達価格の算定

再調達価格は、主に地震リスク評価における予想最大損失額や長期修繕更新費用の算出に利用されます。ERの再調達価格は、対象建築物を現時点において再び建設すると仮定した際に、建設に必要な一般的な費用の総額であり、設計費、解体撤去費、移転引越費、近隣補償費、官庁指導による工事費の増減等は含んでいません。また、区分所有建物や複合施設等の場合は対象範囲を明確にする必要があり、外構や駐車場施設等についても対象かどうかを明確にする必要があります。

再調達価格の算定には、工事請負契約書(工事代金内訳書)、改修工事等の見積書、設計図書(竣工図書・改修図・現況図)、物価指数、資産区分に関する情報等が必要となります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆建物環境リスク評価

 

 

 

既存建築物の中には、竣工時には適法であったものの、その後の法改正等で現在では使用が制限・禁止されている物質が建築材料等に使用されているものがあります。このような状態を放置することにより、人の健康や建物環境に影響を与えることになるため、売買等の事前に建物環境に起因するリスクを評価することが重要となります。ERにおける建物環境リスク評価では下表の項目を調査項目として挙げていますが、ERでは委託者の判断により調査項目が変更される場合もあります。アスベストやPCBに関しては、ほぼ全ての不動産において調査が行われている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

主な調査項目

アスベスト、PCB

 

 

 

 

その他の調査項目

オゾン層破壊物質(フロン等)、大気汚染(ばい煙等排出ガス)、

 

 

 

 

危険物・特殊薬液貯蔵施設、空気環境、飲料水質、

 

 

 

 

空気調和設備用水質、雑用水水質、害虫・害獣防除、排水関係、

 

 

 

 

産業廃棄物

 

 

 

 

 

 

 

◆土壌汚染リスク評価

 

 

 

ERの土壌汚染リスク評価では、既存情報の確認、現地調査及びヒアリング調査結果から、敷地内の土壌環境面に関し何らかの問題を与える可能性のある事実を把握し、その重要性の評価を報告書として取りまとめています。土壌汚染リスク評価の評価手順は下表のとおりです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

@準備

・フェーズT評価のスコープ設定

 

 

 

 

・業務契約の締結

 

 

 

 

・不動産の管理者に対するアンケート回答依頼

 

 

 

 

・既存情報の入手、調達

 

 

 

 

A既存情報の確認

 

 

 

 

B現地調査

 

 

 

 

Cヒアリング調査

 

 

 

 

D報告書作成

 

 

 

 

評価にあたっては、官公庁及び地方公共団体等の公開情報、航空写真、住宅地図等から情報収集し、現地調査から、対象不動産の使用状況の実態を確認するとともに、不動産管理者を対象に、盛土等の造成の有無、有害物質等の購入・保管・廃棄手続き等のヒアリングを行います。

そして、これらの調査から得られた事実、地域の地質や地下水理等を基に、有害物質や石油製品等が、現時点で漏洩している状態にあるのか、過去に漏洩した履歴があるのか、あるいは将来に漏洩の発生が懸念されるような状況にあるのか、を評価者の経験をふまえて判断します。

なお、日本の土壌汚染対策法に基づく土壌汚染状況調査において、調査対象地の土壌汚染のおそれの把握を行うことを地歴調査と呼んでいますが、この地歴調査は土壌汚染状況調査(いわゆるフェーズU)として試料採取等を適切に実施するための手続きの一環であり、ERで対象としている調査レベル(フェーズT)と位置付けが異なるものなので注意が必要です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆地震リスク評価

 

 

 

地震国である日本では、地震により対象不動産の収益性を著しく損なう危険性があるため、投資家は最悪の事態が起きた場合の損失に備えておく必要があります。

ERの地震リスク評価では、地震による対象不動産の経済的な損失をPMLProbable Maximum Loss)で表しています。PMLとは、建物の共用期間中に発生すると予想される地震による最大の物的損失額あるいは予想される最大の物的損失額の再調達価格に対する割合のことです。PMLについては、一般社団法人日本建築学会に設置された「建築物の安全性評価ガイドライン小委員会(2007年)」により3つの定義に分類されており、ERではどの定義に基づく評価であるかをレポートに明記することとしています。

PMLは評価会社が独自に算定式や評価モデルのパラメータを構築していることが多く、評価者が異なれば、同一の建物であってもPMLの評価結果が異なる場合があります。

なお、地震リスク評価の過程で耐震性能に言及する場合がありますが、地震リスク評価は地震による経済的な損失予測することを目的とする評価であり、対象とする建物の構造設計の内容が建築基準法及び施行令等の耐震規定に適合しているか否かに言及するものではありません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆問合せ先

 

 

 

公益社団法人 ロングライフビル推進協会(BELCA) 総合企画部

TEL03-5408-9830  FAX03-5408-9840