18回BELCA賞ベストリフォーム部門表彰物件

綱町三井倶楽部

所在地 東京都港区三田2−3−7
竣工年 1913年(大正2年)
改修年 2006年(平成18年)
建物用途 社員クラブ(大食堂・サロン・談話室等・改修前後とも)
建物所有者 三井不動産
改修設計者 清水建設活鼡煙囃z士事務所
潟tィールドフォー・デザインオフィス
改修施工者 清水建設
三井住友建設
新日本空調
東光電気工事
 本館は三井家の迎賓館としてジョサイア・コンドル博士の設計により大正2年に竣工した。明治大正期を代表する建造物であり、西洋建築の傑作とされている。100年近く使い続けられてきたこの歴史的建造物を次代に継承するべく、この度実施された全面的リニューアルのコンセプトは「コンドル博士のオリジナル空間の保存・復元」と「現代の迎賓施設としてふさわしい施設」の2点であり、それを居ながらの改修により実現しようとするものであった。
レンガ造建築である本館の耐震対策として、内外の意匠保存と工事中の建物の継続使用を可能とするためもあり、基礎免震工法が採用されている。既存の梁を新たにRCの梁で包み込むように補強し、一部屋毎に無筋の土間コンクリートを剛強なRCスラブに打ち替えてゆき、新たな構造体に置き換えた後、免震ピットを築造するという手法である。もともと存在していたドライエリアや庭園への階段などを利用した建物外周のEXPJの処理は巧みで改修以前の状態を極力保存するという意図が達成されている。内外装の改修にあたっては幸いにも残されていた竣工当時の図面、写真、昭和3年の震災復旧工事の工事写真や構造計算書、過去に幾度か行われてきた改修工事の竣工図などを元に、綿密な現況調査もふまえ、オリジナルかどうかの判断をしながら空間の性格を分析し、最適な仕様とデザインを追及してゆくという手法がとられている。カーペットが敷きつめられていた一階の主空間はこれらの検討により、木床と置敷きのカーペットという竣工時の姿に蘇らせている。壁紙や家具等についても博士のドローイングなど竣工当時の姿を示す資料を手がかりに色調、テクスチュアなどを決定している。これらの作業は「まるで推理小説を読み解くようだった」という設計者の言葉どおり丁寧でエキサイティングなものであったと推測される。
設備関連の改修に於いては空調能力の増強や幹線ルートの更新など、現代の迎賓施設として求められる機能を整備しているが、ここでも建物の竣工当時の雰囲気を可能な限り損なわないための配慮がなされている。照明器具は当時の様式を採用し、暖房用の蒸気コンベクターをそのまま残置させ、ファンコイルユニットは壁内ニッチ部分に隠蔽して設置して前面ルーバーを外すことで容易に維持管理できる構造としている。また換気は外壁に新たな開口を設けず暖炉の煙突を利用したり、免震ピット内を配管スペースとして有効に利用するなどの工夫がなされている。今後、前面道路拡幅により移設を余儀なくされた門、塀を戦時中の金属供出により失われたオリジナルに復元してゆく予定であるという。
本館のリニューアル内容はBELCA賞の要件をハイレベルでクリアーしており、歴史的建造物改修の模範例となるものである。この建物の重要性を充分に理解し、現役の施設として可能な限りオリジナルの状態で次代に継承してゆこうとする建築主の姿勢に敬意を表するものである。幸せな建物であり、それが残される私たちの未来にとっても喜ばしいことである。
 
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