15回BELCA賞ベストリフォーム部門表彰物件

横浜郵船ビル

所在地    横浜市中区海岸通3-9
竣 工    1936
改 修    2003
用 途    博物館・事務所(改修後)
     事務所(改修前)
所有者 日本郵船
改修設計者 郵船不動産活鼡煙囃z士事務所
改修施工者 椛蝸ム組

 横浜には今でも素晴らしい洋風建築が数多く残っている。明治、大正そして昭和初期の歴史的建造物が、今もなおその街並みを楽しませてくれる。
 横浜郵船ビルも築70年経過した歴史的建造物である。港湾地域には他にも古い歴史的建造物が多いため、昭和11年の竣工というのは、他と比較するとまだ若い部類に入る。しかし、印象的なギリシャコリント式の16本の列柱は、歴史を感じさる風格を持っている。
今回のリフォームは、隣接の倉庫に開設していた日本郵船の歴史資料館が10周年を迎えたのを契機としている。ビル内1階の営業室を、大空間の展示室をもつ「日本郵船歴史博物館」へ用途変更することにより資料館を移設した。あわせて外観や1階の室内を竣工当時の姿に復元するとともに、耐震性能や防災性能の向上、空調設備の更新、バリアフリー化なども行なった。
博物館は建物の持ち味をうまく活かすとともに、海運の歴史でもある横浜の人・物・文化の歴史が分かる展示施設となっている。建物は、使用する用途によりさらにその価値が向上するが、街並みや地域の活性化も充分考慮した博物館への用途変更は、この建物をより引き立たせることに成功した。
 ウインドクーラーを全て撤去するとともに、アルミサッシを竣工当時の形状・材質のスチールサッシに復元するなどして風格ある外観が蘇った。また、シャンデリアまで復元し竣工当時の姿を取りもどした1階の室内を、博物館の展示室として活用することが相乗効果を引き出し、建物の持っている価値を一層貴重なものにしている。 
1階の出入口に面した外気の入りやすい場所に展示室を設置することは、一般的には難しい。本件では、展示物を専用ケースで覆い調湿に配慮するとともに、旧営業室のカウンターで外気をブロックし熱的外乱を防御するなどの工夫がなされている。さらに、大空間であっても床から空調吹出しを行い中間位置から吸い込んで対象空間のみの空調を行うなどの工夫により省エネとの両立も果たしている。
また2階以上がテナント用の事務所となっているため、1階にテナント専用の出入口を新設したが、復元した大空間展示室の歴史的雰囲気を生かすため、透明感のある硝子パーティションで博物館のエントランスホールと区画しており、何気ない納まりの中に味がある。テナント動線を考慮した平面計画の立案や、エレベーター2基の新設などテナントを満足させる改修が行われた。意匠を考慮したブレースと壁増強による耐震改修は、既存のデザインに影響を与えることなく安全を確保している。さらに博物館の利用者やテナント関係者をふまえた防火区画の設定、そして機械排煙設備の導入など防災に対する改修は、大変苦労が見られ既存不適格を改善している。
 使用する側に安心を与え楽しませてくれる建物である。