第14回BELCA賞ベストリフォーム部門表彰物件

奈良県庁舎

所在地    奈良県奈良市登大路町30番地
竣 工    1965
改 修    1999
用 途    事務庁舎(改修前後とも)
所有者 奈良県
改修設計者    (株)日建設計
改修施工者 (株)奥村組
       三井住友建設(株)
      (株)浅川組
      (株)尾田組
      (株)山中工務店                                                                    

 奈良県庁舎は昭和40年、古都・奈良市に竣工した。計画当初の時期には「近代建築と古都・奈良の景観」について有識者、マスコミ、一般市民をも巻き込んだ激しい都市景観についての論争が繰り広げられるなど、話題になった作品である。完成後は多くの県民に受け入れられその後の県の公共施設にも大きな影響を与えた。

 その庁舎も既に竣工から約40年近い月日が流れ、耐震性能、高齢者障害者対応、執務環境改善等、時代の変化の中から生れてきた様々なニーズに対応する必要が生じていた。景観論争を経て完成したこの庁舎の場合は建物を残すことが第一義とされ、改善の手段として建替えという選択肢は早くから捨てられた。現在県民に親しまれ景観にもしっくり融け込んでいる庁舎の本来の美観を損なわない耐震改修と建物機能更新を行う全面改修が行われることになった。

 最も重要な改修が耐震能力の向上である。コア部分の補強は鉄骨柱の新設を含む大規模なものになった。回廊部分の柱は現状の物を全て撤去し新しくコンクリートを打ち直すという画期的な工事である。コンクリートの仕上げでは杉板の木目を転写した特殊な型枠を使用して建設当初の打ち放しの美しさの回復に挑戦している。また来庁者にとって今まで以上に使い易い庁舎とするためのいろいろな工夫も行われている。従来のフロアダクトに変えて、高さ50mmのOAフロアを敷く事で、古い建築であるにもかかわらず執務環境を損なう事無く、増大するOA化への対応が出来た。各階の空調機は省エネタイプに随時更新されており、照明器具・エレベーター等も、計画的に更新がなされている。建設当初の電気・空調・給排水衛生設備は、その殆んどが更新されているようであり、その都度忠実に原型に復元する努力がなされている。そのため建設当初の設計思想を受け継ぎながら、うまく時代の変化に対応して良好な執務環境を持続し運用されてきたと言える。

 県庁の営繕の担当者と設計者、施工者が長年緊密な連携を取りながら建物を撫ぜるように可愛がってきたという結果であろう。広く県民や観光客に解放され古都の景観を楽しめる屋上の広場がこの庁舎のあり方を象徴している。