第18回BELCA賞ロングライフ部門選考講評

 BELCA賞選考委員会副委員長 鎌田 元康

 第18回BELCA賞には、昨年度とほぼ同数の応募物件があったものの、ベストリフォーム部門の応募数が増える一方で、ロングライフ部門の応募数は減少した。しかし、表彰物件数が昨年と同数の4件であることが示すように、例年にもまして優れた物件揃いであったというのが、選考委員全員の感想であった。今回ロングライフ部門で選定された表彰物件のうち3件は、竣工当初より用途が変更されていないが、建設会社本店ビルからレストラン・歴史資料館・各種学校を含む複合用途ビルに用途変更された「ルポンドシエルビル」を含んでおり、ベストリフォーム部門とロングライフ部門の両者を厳密に区別することなく、両者合わせて10件を選ぶという選考方法が妥当なものとなっていることを、昨年と同様感じさせられた。今回の表彰物件は、年数が最も少ない「東京カテドラル聖マリア大聖堂」で竣工後約45年が経過しており、長期間にわたり、所有者、設計者、施工者および維持・管理に携わる方々が、各立場から真剣に建物を長く使うために努力され、また、所有者の方が、建物に強い愛着を持ち続けたことに対し、心から敬意を表したい。

 「伊勢丹本店本館」(1933年竣工)は、1886年神田明神下で伊勢屋丹治呉服店として創業した「伊勢丹」が、新開地である新宿に百貨店として進出することになり建設した建物が元となり、その後隣接する建物の買収合併を行い、1965年までに14期に及ぶ増改修を行ったものである。1936年の外装改修によりほぼ現在の姿となったが、1986年には伊勢丹創業100周年事業の一環として、全館の外装全面改修を行い、耐久性と安全性に配慮し、高層部のテラコッタとタイル、スチールサッシュは、既存のテラコッタとタイルのイメージそのままにGRCパネルやアルミサッシュに置き換えながら、昭和初期のアール・デコ調のデザインとしての面影を残しつつ、近代化されたファサードとなったのが今日の姿である。2003年から5年にわたる全面的な耐震補強を行い、現行法規と同等の耐震性能をもたせていること、維持管理・保全に関しては、長期保全計画を作成し、増改築ごとに設備改修・更新が図られ、さまざまな省エネルギー・省資源化が図られていること、屋上の利用でも、単なる集客空間とすることなく、芝生広場や四季をテーマとした回遊式庭園などを積極的に取り入れ、都市緑化に貢献し、心地よい公共空間を生み出していることなどが評価された。

 「東京カテドラル聖マリア大聖堂」(1964年竣工)は、数ある丹下建築の中でも代々木屋内総合競技場と並んで最高傑作とも評される建築である。竣工後21、32年目に続き行われた今回の43年目の大規模改修では、オリジナルデザインを踏襲しつつ、HP(双曲放物線)シェルのコンクリート劣化が内外部とも徐々にではあるが進行し、内壁でもわずかながらエフロレッセンスが生じ、また、竣工以来ほとんどノーメンテナンスだった外装ステンレスには腐食や捲れが生じ、下地鉄骨にも発錆が生じているという数々の問題に対し、RC躯体の防水対策を充分に施した上でステンレス板を全面貼替えるという万全を期した改修を行い、さらに応急処置が行われていたトップライトについてもシールによらない納まりのアルミトップライトを新設している。極めて難易度が高い外装改修工事を、専用の治具を製作するなど種々の工夫をして見事に成功させていること、電球切れ毎に足場を組まなければ交換できなかったトップライトの照明を昇降式の大型のものに換えていることなどの他に、今後に計画されているバリアフリー化や、大聖堂と同時期に竣工した鐘楼の改修、献堂50周年に行う予定の構内再構築整備への準備など、所有者の熱意が高く評価された。

 「東京タワー」(1958年竣工)は、内藤多仲の設計指導のもと建設され、現在でも自立鉄塔としては世界一の高さを誇る建物であるが、50年の間、東京のランドマークとして美しい姿を保ち続けていることが高く評価された。その裏では、多くの困難を伴った改修、維持・管理が行われている。2003年には、アナログ放送からデジタル放送へという時代の要請に応え、特別展望台上部鉄塔の地上250mに地上デジタルアンテナを増設、大展望台直下の地上100mの鉄塔内にデジタル送信機室を増設したが、建設時の総荷重3700tに新たに計600tもの荷重が高所に加わるといった難工事を、様々な技術を駆使し、24時間放送停止なし、かつ、電波塔本来の機能性と、現在の設計基準でも十分な安全性の両方を満足させる仕様で完了している。その他にも、塔体下部の低層棟(放送中継施設および観光施設)の耐震補強および内外装のリニューアル、大展望台へのエレベーター更新工事、発信電波に影響を与えぬよう丸太足場を組んで手塗りで実施している1965以降5年毎の塗装替え、施設運営システム導入による管理の高度化・効率化、1989年に一新したライトアップなど、地道な努力により、竣工以来年間300万人以上の来館者がある魅力ある施設であり続けている。

 「ルポンドシエルビル(大林組旧本店ビル)」(1926年竣工)は、大林組の本店ビルとして建設された、当時、最先端であったスパニッシュスタイルの秀逸なデザインのビルである。1972年に大阪大林ビルが建設されたため、ビルの機能は企業本社からテナントビルに生まれ変わり、1981年以降は、2007年の大規模耐震補強工事を伴う改修工事まで、料理学校の校舎として使われてきた。今回の改修により、B1階〜2階がこのビルの名前になったフレンチレストラン「ルポンドシエル」、3階が大林組歴史館、4階〜6階までは従前どおりの料理学園の教室となった。個性豊かな外観を極力保存するため、外壁のデザインを損なわないよう耐震壁は既存窓の内側に設けるなど多くの工夫が見られること、室内スペースを損なうことなく、今後の長期使用に耐えうる設備改修が行われ、維持管理計画も極めて妥当なものであることなどが評価された。