17回BELCA賞ベストリフォーム部門選考講評

BELCA賞選考委員会副委員長 三井所 清典

 17回BELCA賞ベストリフォーム部門は、応募建築の質がさらに向上しており、関係者の努力を高く評価したい。応募に力を発揮された全ての人に心より謝意を申し上げ、建物の管理運営に一層意を注いでもらいたいと願う次第である。また、審査を重ねる中で、リフォームされる建築の従前従後の用途がさまざまで、建築を壊さずに活かすことの意義をつくづく感じさせられ、皆様と共にリフォームの価値の高さをさらに広めていきたいと思うところである。

 「岡山県総合福祉・ボランティア・NPO会館 きらめきプラザ」(1961年竣工、2005年改修)は、旧国立病院本館として使用されていた建物をPFIによる新しい事業手法を用いてリフォームした建物である。特徴は耐震補強としてダブルフレーム構法と称する鉄骨フレームを外周に設け、内部の既存の耐震壁を全て撤去して、所定の高い耐震性能を確保していること、また配管・配線や空調室外機、トイレなどの水廻りをダブルフレーム構造の中に収容することと合せて内部の平面的自由度を確保し、新しい建物用途に適合しやすいスケルトンを創造していることである。結果として、新しい機能は十分に満足され、建築設備は新しい用途に合せて新設されており熱負荷の低減、自然エネルギーの活用等ライフサイクルマネージメントなど計画され、時代の要請に応える建物となっている。

 「国際文化会館」(1955年竣工、2006年改修)は前川國男、吉村順三、坂倉準三の共同設計による近代建築で、全面建替が検討されていた中で、各方面からの保存要請があり、特に日本建築学会の当会館保存再生計画特別調査委員会の報告書(20048月提出)が契機となり、保存再生に方針が転換されたものである。特徴は敷地の高低差を利用して地下に日本庭園に続くホールを増設したこと、設備諸室を前庭の地下に増設し、既存の外観を変えることなく機能を一新したことである。また、ホテル部分の中廊下を片廊下にして宿泊室を大きくしたことや、外周の木製建具を活かしてガラスを複層ガラスにするなど新しい設備と共に省エネルギー化を図って建物の性能向上を実現していることである。「保存のための再生でなく、再生のための保存」というコンセプトを見事に達成したリフォームである。

 「宮城球場」(1950年竣工、2006年改修)は既存の県営球場を改修し、プロ球団のホームグランドにするという突然の要請に応えたリフォームである。特徴は2回のシーズンオフを利用して改修されたこと、観客が「近くで」「自由に」「贅沢」にゲームを観戦できるようさまざまな観客席の工夫がなされていること、周囲の公園を球場内に取り込み、子どもから大人まで多様な楽しみ方ができることなど、日本では初めての「ボールパーク」という概念の球場として再生されたことである。建築的には耐震性のある既存躯体にはあまり手をつけず、正面外側に増築することで短工期を可能にし、設備を含む新しい機能の要求に応え、新しい顔づくりにも成功し、「野球を楽しむ」というコンセプトの野球場を実現している。

 「養命酒健康の森 記念館」(1930年竣工、2005年改修)は、かつての酒蔵を新しい工場に移築し、展示・休憩場として工場見学者に開放される記念館にリフォームされたものである。特徴は木造酒蔵の骨太の軸組には極力手を加えず。漆喰壁、なまこ壁、屋根瓦等の外装も修復して保存し、一方内部空間に設置する新たな展示装置をガラスやステンレスによる現代的な素材とデザインで構成するなど、新・旧の対比的組み合わせにある。さらに酒蔵脇に併築された休憩棟をコンクリート・鉄・ガラスによる現代建築デザインとして展示棟と対比させ、しかも照度を抑えた閉鎖的な展示棟と清澄な外部の自然に開放的な休憩棟のデザイン等重層された対比の構成である。この対比するコンセプトは設備設計にも及び、展示棟には一部床下に空調装置を仕込む以外は設備を極力軽くし、水廻りを含む設備の機能の殆どを休憩棟に集中するなど維持管理の容易さや省エネルギー設計にも反映され、全体として見事な建築としてまとまっている。

 「Lattice shibaura (ラティス芝浦)」(1986年竣工、2006年改修)は7階建のオフィスビルから全60戸の賃貸住宅・SOHOへのリフォームである。近年、芝浦地域はかつての倉庫街から都心型住宅街へと変化しつつあり、このプロジェクトはその潮流を巧みに捉えたものである。特徴は運河に臨んで劇的に都心居住地域に変貌した立地と提案された都心型ライフスタイル及びその改修のデザインが見事に符合しているところである。内部は鉄筋コンクリートの既存躯体の工事の精度がよく、整然とした柱梁架構で、住宅としては階高が高くゆとりがあるため、露出配管や薄化粧の躯体を見せる室内設計もスッキリとしてよくまとまっている。外装は白と黒の塗装の塗り分けによってライフスタイルイメージをうまく表現している。また磁器タイルへの、塗装技術は今後のモデルとして耐久性を期待したい。

 「龍谷大学大宮学舎 大宮図書館」(1936年竣工、2006年改修)は大宮探検隊収集品を収蔵する質量とも優れた大学仏教図書館の増設整備のためのリフォームである。特徴は増設を主として図書館の中庭を大きな吹抜け空間として室内化することによって実現し、京都西本願寺境内という周囲の佇まいを乱していないこと、図書館の機能を停止することなく十分時間をかけてリフォームを実現したことである。中庭側の壁を厚くすることで構造的性能を向上させ、中庭部分に新設された屋根を活かして明るい天空光を採り入れ、内装の木部の色調や窓廻りの配慮されたディテール、人工照明の工夫などによって図書館全体が快適で落ち着いた雰囲気を醸し出すことに成功している。