15回BELCA賞ロングライフ部門選考講評

BELCA賞選考委員会副委員長 鎌田 元康

 第15回BELCA賞ロングライフ部門は、今回から応募条件が“竣工後30年以上を経過したもの”に変更された。この変更に伴い、応募件数が激減するのではと危惧していたが、減少はわずかに止まり、例年どおり全国から、優れた維持保全を行い、現在でも有効に活用している物件の応募をいただいた。1次の書類審査を通過した建物に対し、2次の現地審査を行い、厳正な審査の結果、残念ながら昨年より1件減ったものの、以下の4物件がBELCA賞ロングライフ部門の表彰物件として選定された。

 「市政会館」(1929年竣工)は、懸賞コンペで選ばれ、1923年の関東大震災直後に設計され、1925年に着工した建物である。十分な耐震性が求められたことから、松杭2,200本を用いた地盤改良が行なわれ、耐震壁を多用した鉄骨鉄筋コンクリート造で建築され、75年後の現在でも、ひび割れが無く、不同沈下も見られない。本建物は、近代ゴシック様式の重圧で優美な外観を誇るが、アクセントとなっているテラコッタタイルの補修と外装のスクラッチタイルの補修などに、特に苦労が感じられる。内部は、創建時の格調ある雰囲気を残すよう、当時の仕上げをできるだけ残す工夫をしている。設備面では、時代のニーズに合わせて追加されてきた各種設備の更新時に、外壁に設置されていた各種配管や屋外機などを撤去し、建設当時の外観に復元するとともに、会館のシンボルである時計のイメージを損なわない形での最新型への更新、テナントビルとしての空調負荷対応、事務所照度750lxへの改良、光ケーブルの引き込みなどを行っている。テナントの会社数が増加するなど、管理面での苦労が増えていると思われるが、100年建築を目指しての、長期保全計画などが高く評価された。

 「ダヴィンチ銀座(旧リッカー会館)」(1963年竣工)は、リッカーミシン本社ビルとして建設され、日本建築学会賞を受賞している。その後所有者がダイエー、現在の所有者と替わっている。ビルの正面が西を向いていることから、西日を遮断し、しかも内部からの眺望を確保する目的で、通常のサッシとは別に、バルコニーの外側にグレーペンのガラスで覆われたアウタースキンがついており、現在でいう環境配慮建築のダブルスキンの先駆けとなった建物といえる。このバルコニー部分に、冷房負荷増大に対処するための空調用屋外機が設置され、建設当初のスッキリとした外観を台無しにしていた点を、空調設備の熱源集中エアハンドリングユニット方式から、ビル用マルチを用いた天井隠蔽型ヒートポンプパッケージユニット方式への改修時に解消するとともに、地階熱源機器、各階空調機、さらには地階受変電設備を屋上へ移し、貸室面積を増やしている。また、耐震改修においても、構造スリットの新設、壁の増し打ち補強ばかりでなく、柱、梁に対してハイブリッド補強工法を採用し、フレーム全体の耐力と粘り強さを向上させ、外観を損なうことなく耐震性能を確保している。これらの改修および適切な水回り設備の改修、さらにはアスベストの完全除去など、テナントビルとしての魅力を損なわない努力が評価された。

 「名古屋商工会議所」(1967年竣工)は、名古屋での日米市長・会議所会頭会議開催を機に建て替えられた建物である。1961年に制定された特定街区の基準を利用し、周辺環境との調和に配慮された41mの高層ビルとして計画され、平面プランはセンターコア形式で、基準階の奥行14.4mのフレキシビリティに富んだオフィス空間を持ち、バランスよく配置された耐震壁により耐震安全性も高く、熱源負荷低減にも配慮されている。高効率な熱源機器への更新、小区画制御も可能な空調方式への変更、変電設備更新、給排水管更新、OA専用電源の新設など、既存設備を活かしながら、省エネルギーも考慮した計画的で無理のない改修を行っている。維持管理において、所有者の維持管理部門を中心に、設計事務所、施工会社、管理会社が一体となって取り組んでおり、長期のテナントが極めて多いことなどが高く評価された。

 「リーガロイヤルホテル」は、今回の表彰対象である1965年竣工のウエストウイング、1973年竣工のタワーウイングに加え、その後に建設されたその他の建物により構成されている。ロビー、宴会場は建築家吉田五十八の監修による日本的な伝統美を表現した構成をとっており、バーナードリーチの着想を吉田五十八により具現化されたリーチバーなどはホテルのシンボルとして大事に維持保全が図られており、40年以上経過してもそのデザインの持つ魅力を失っていない。ホテルの魅力を失わせないための客室、レストランの模様替えを順次行っているのは当然として、外壁タイルのネットバリアー工法による改修計画など、安全面への配慮もなされている。また、計画的な給水管の交換や、省エネルギーに配慮し、CO排出削減を目指した設備関係の維持保全水準も極めて高い。「関西の迎賓館」としての地位を不動なものにしようというオーナーの意志のもと、設計者、施工者、維持管理者が緊密な連携をとり、改修および維持保全に取り組んでいる点が高い評価を受けた。