第14回BELCA賞ベストリフォーム部門選考講評

BELCA賞選考委員会副委員長 三井所 清典

 第14回BELCA賞ベストリフォーム部門に多数の応募をいただいた。この部門はリフォームの概念が広く、毎年ロングライフ部門と区別しにくい応募案がある。特に建物の主な用途が変らず、耐震改修や設備機能の更新・向上を計ったケースはどちらに区分しても、それぞれ主張できる筋がある。そういう理由で今年も一次の書類審査、二次の現地審査とも両部門を区分せずに審査を進めた。結果として、入賞物件はいずれも応募者の区分の通りに結着した。  

 最近の傾向をみると、創建当時のニーズに応えてつくられた建築も時代の変化とともにニーズが変り、性能が格段に向上したり機能が豊かになったり、多様化したりするため主な機能が同じでも、リフォームと把えられるケースが多い。今回の表彰物件では、東京国立近代美術館、奈良県庁舎及び立教大学第1食堂がこの中に入る。巴川ビルと横浜情報文化センター等は用途が変ったいわゆるコンバージョンのケースであり、この二つは建物の古い時代性が尊重されたものである。選外には省資源の観点や省エネルギーといった環境的観点を強調したコンバージョンの応募もあった。

 「東京国立近代美術館」(1969年竣工、2001年改修)は北の丸の都市景観として定着している外観を壊さないことを要件に、現代の美術館に求められる機能の向上及び耐震性能の確保を実現したリフォームである。機能充実のための増床を、立面への影響の少ない西側隣接建物の間と地下階の階高変更によって拡張したこと、エントランス広場、ミュージアムショップ、レストラン増築などのアメニティ施設をフリーゾーンとして前面にまとめながら、それらを印象強く枠取りされた白い主要立面の下部に納めたこと、耐震補強を増築部と床面鋼板貼補強によって実現し、既存のピロティの列柱を残したことなどでイメージの保存に成功している。改修された照明・空調の質も高い。

 「巴川ビル」(1920年頃竣工、2000年改修)は銀座の表通りから一筋入った街角にある。当初は銀行、後に事務所ビルに使われていたが、老朽化が進み、この数年はテナントもなく、解体を待つ状況であった。今回のリフォームは、やや深めに設けられたポツ窓の並びが創建時の雰囲気を醸しており、その古びた佇まいに価値を見出し、汚れも含めて外観を保存し、内部をクオリティの高いレストランに一新させたものである。入れ替えられたステンドグラスはしっかりと作られた内装と相俟って外観と調和した古い時代性を演出している。耐震補強は、道路に面さない2面の外壁全面に鋼板を貼るとともに5階の床を抜いて軽量化を計ることで解決している。古建築の外観を保存してビジネスに活かす構想が評価された。

 「奈良県庁舎」(1965年竣工、1999年改修)は計画当初、近代建築が古都・奈良の景観に合うかという大論争を経て実現したことを尊重し、又その後多くの県民に受け入れられてきた経緯から外観の保全を前提に、機能の向上及び耐震性能の確保を実現したリフォームである。機能的には主棟の各階に部局を配し、応接・打合せスペースを設け、バリアフリー化やゆとりのある県民ホールの実現、屋上の開放など来庁者へのサービスを増している。耐震補強はコア部分に鉄骨柱の新設を含む大規模補強を行い、回廊の列柱は撤去して打直す困難な工事に挑み、美しいコンクリート打放し仕上げを再現している。設備環境も向上し、執務を休むことなく延べ移転回数1533回の3年に亘る工事を完遂している。

 「横浜情報文化センター・横浜都市発展記念館・横浜ユーラシア文化館」(1929年竣工、2000年及び2002年改修)は歴史的建造物の多い横浜関内地区にあり、旧横浜商工奨励館及び旧横浜市外電話局の二つの異なる建物の外観を保全し、新しいニーズに応える機能を再生させている。現実には、表通りからセットバックした地上12階地下3階の新築棟と一体となった複合文化施設であり、新設の地下鉄と接続する入口部分は旧建物を一部解体し復元されている。再生に当り、旧横浜商工奨励館は躯体の中性化が進んでおり、電気的再アルカリ化工法が採用されるなど工夫が凝らされている。横浜市の歴史的建物の保存の熱意に、設計と施工の技術者が誠実に応えたリフォームである。

 「立教大学第1食堂」(1918年竣工、2002年改修)は、キャンパスのレンガ造低層建築群で構成されるメモリアルゾーンの中心施設であり、東京都歴史的建造物に選定されている。しかし耐震診断ではレンガ壁の転倒が指摘され、今回のリフォームでは耐震補強と機能の向上が実現された。従前はこまかい改修の積重ねで、食堂内部は雑然として落ち着かない様子であったが、RC造の厨房棟を食堂裏に新築し、配膳口や空調設備等をすべて厨房棟に移し、地震力も厨房棟で支える方法により、食堂を創建当時のイメージに回復することに成功している。食堂内部の耐震補強は木造小屋組に目立たないように鋼材を用いており、厨房棟から通路の上部を飛ばすダクトレス空調のアイディアも食堂をすっきり保つことに効果がある。